発達障害46歳男性が「売春」に手を染めた事情 「いつか結婚したいから自己破産はしない」

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最近、生活保護の申請に行ったが、ケースワーカーから、借金がある場合は自己破産することが必要と説明され、利用をあきらめた。「自己破産だけは絶対にしたくない」という。その理由について、アユムさんはこう説明する。

埋めがたい理想と現実のギャップ

「いつか家庭を持ちたいんです。いずれは女性と結婚して、子どもも欲しい。自己破産なんてしたら、住宅ローンが組めなくなるじゃないですか。子どもは、自分とは違う、障害のない子がいい。そして、ほかの子と同じようにサッカーや野球をやらせたいんです」

アユムさんは40代半ばを過ぎ、600万円もの借金があるうえに、現在は無職である。さらにADHDやLGBTに対する世間の偏見はいまだに根強い。それでも、アユムさんは「1%でも可能性があるなら、やるしかないでしょう」という。

もともと、アユムさんは編集部に「借金に発達障害、性的マイノリティ、オーバードーズ、無職などの『七、八重苦』。できることならば、八王子の医療刑務所で静かに息を引き取りたい」という旨のメールを送ってきた。

絶望を訴える一方で、私には将来の希望を語る。たぶん、いずれもアユムさんの本心だ。そして、埋めがたい理想と現実のギャップに気がつくたびに、死にたくなるほど傷ついてきたのではないか。

ただ、アユムさんの“希望”にはひとつ根拠がある。40歳を過ぎて初めてADHDと診断されたことだ。幼いころからの人間関係のつまずきや、仕事が長続きしない原因は、すべて自分にあると思い、自身を責めてきたが、実は障害のせいなのかもしれない――。

「ADHDへの合理的な配慮さえあれば、福祉の採用枠じゃなくても働けると思うんです。(会社には)障害者としてではなく、ADHDである私自身を認めたうえで採用してほしい」

ADHDと診断されたからこそ、積極的に福祉を利用すべきなのではないか。適切な支援が届かなかったから、売り専や保険金詐欺に走らざるをえなかったのではないのか。私の心配とは裏腹に、アユムさんはどこまでも前向きだった。

取材を終えようとしたとき、アユムさんが友人に限定して公開しているフェイスブックの写真を見せてくれた。それは、SPECTと言われる、自身の脳の診断画像だった。アユムさんによると、前頭葉と言われる部分の色が普通の人とは違うのだという。

「ADHDは私のアイデンティティなんです。私がほかの人と違うのは、脳が違うから。友人には、ありのままの自分を受け入れてほしいと思って」

オレンジや黄、緑、青色に光る脳の断面画像は、どこか美しかった。自分なんて生まれてこなければよかった――。そう悩み、苦しみ続けてきたアユムさんにとって、それは、確かに初めて得た「目に見える答え」なのかもしれない。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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