介護とは、実家とわが家の「外交問題」である 「うまくやってよ」ではなく戦略を考えよ

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谷川直子(たにがわ なおこ)/1960年兵庫県生まれ。2012年『おしかくさま』で第49回文藝賞を受賞。ほかに小説『断貧サロン』『四月は少しつめたくて』『世界一ありふれた答え』、高橋直子名義で、エッセイ『競馬の国のアリス』『お洋服はうれしい』などがある。本作は著者が小説で初めて三人称で描いた作品である(撮影:風間仁一郎)

――最近は「終活」をテーマにしたテレビ番組も多いです。実の子が親について深く考える前に、身内の誰かが「そういえばお父さん、最期はこんなふうに死にたいって言っていたわ」と言い出したら、どうしますか?

この問題は必ず出てくると思うんですよ。「身体に管をつけてまでも生き延びたいと思っていないから」と。でもその言葉を、何歳の時にどんな感情で言ったかはわからないじゃないですか。75歳の時に、85歳まであと10年生きたいと思った感情と、50代でテレビを観てボソッと言った思いは違いますよね。

もし義理のお母さんがそのように言っていたとしたら、嫁の立場ならなかなか逆らえないと思います。本当のところはどうなんだという意思確認は、すごく難しい。「自分の死に方を決めたい人は、文章化しておきなさい」とよく言いますが、実際本人の希望は刻々と変わっていくでしょう。なぜかというと、救える病の範囲がどんどん広がっていきますし、認知症でさえも治るかもしれない世の中になっているから。そうなってくると、やはり実の子の判断が重要なのかもしれません。

夫婦で認識を統一し、目標を定めること

――いよいよ介護に夫婦で向き合うことになったとき、旦那さんが実家のほうを向いているのか、妻である自分に向いているのかで態度が大きく変わると思います。お嫁さんは気になりますね。

子どもが親の介護に無償で尽くすのは、両親によくしてもらった恩義があるからですよね。私の嫁いだ家もそうでした。でも人には寿命があるので、介護はいずれ死につながります。そのとき、打算的な話にはなるのですが、自分たちは実家から何を欲しいかという問題が出てくると思います。

義理のお父さんが亡くなった後、旦那さんが実家の土地を欲しいと思っている場合は、妻に「介護の間は我慢してくれ」と言わざるをえない。土地をいただくには礼を尽くさねばならないと夫が思っているのだとしたら、それを嫁がきちんと理解しているかどうかも大事ですね。

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