介護とは、実家とわが家の「外交問題」である 「うまくやってよ」ではなく戦略を考えよ

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――何が欲しいのかを今すぐ話し合ったほうがいいのですね。

介護は始まってしまったら、もう休む暇がありません。ですので、介護に突入する前に、今すぐ夫婦で話し合ってほしいです。結婚した当初は、愛に基づいて生活をしているので、実家の土地をどうするかという問題まで考えていませんよね。

義理の両親の具合が急に悪くなることもあります。すると兄弟同士で、相続の中で介護がどれほどの割合を占めるのかというようなリアルな話もしなくてはいけません。介護を相続の俎上に載せるのなら、夫婦間で意思確認をするべきですよね。お嫁さんが介護をしているのであれば、その心意気を旦那さんに知ってもらいたい。旦那さんも実家の相続の心づもりがあるのなら、奥さんに一言伝えてもらいたいと思います。

――もし、旦那さんが実家から何も欲しくない場合は、どうでしょう?

介護のすべてが相続と直結するわけではないのですが、実家に礼を尽くさないとまずい状態でなければ、妻のほうを向いて「嫌なことはやらなくていいよ」と言えるはずです。

今、女性が介護する例ばかりを挙げてしまいましたが、男性が介護に回ることもあらかじめ想定して話し合ってほしい。旦那さんの取る立場次第で、介護にどう取り組むか、夫婦で出す答えがまったく異なってきますね。

いざ介護が始まってから、夫に問題を押し付けられたら

――基本的に介護は、最初の段階から夫婦でかかわるのが望ましいということがわかりました。しかしお嫁さんが介護を担当していて、何か現場で問題が持ち上がったとします。それを旦那さんに相談したところ、非協力的な態度で「実家、親戚とうまくやってよ」と言われたとしたら、お嫁さんはどうしたらよいでしょうか。

「うまくやってよ」の「うまくの限度」は、お嫁さんが抱えるいちばんの問題ですよね。昔、さだまさしさんの「関白宣言」の歌詞の中に、「姑小姑かしこくこなせ たやすいはずだ愛すればいい」というのがありました。旦那さんが「自分の親兄弟なんだから好きになってくれ」と思っていたとしたら……私はムリですねえ。

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――ムリですか(笑)。

女の人は家の台所を守っている同士だと、絶対に仲良くなれません。皆、一国一城の主なんですよ。だから、男性は国と国との外交だと思ってください(笑)。

外交は同盟を結ばなければ成立しませんよね。同盟をどの程度で締結するのか。戦争をしない範囲でとどめるのか、それとも仲良くやり取りするところまで踏み込むのか。介護を一緒にやる範囲まで踏み込むのか。

やっぱり実家や親戚との同盟の条件は男の人が参加して、話し合いで決めてもらわないと。外交って、そういうものじゃないでしょうか(笑)。

横山 由希路 フリーランスライター・編集者

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よこやま ゆきじ / Yukiji Yokoyama

神奈川県生まれ。東京女子大学現代文化学部卒業。エンタメ系情報誌の編集を経て、フリーに。コラム、インタビュー原稿を中心に活動。ジャンルは、野球、介護、演劇、台湾など多岐にわたる。

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