各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩

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真っ向からトランプ大統領を批判したフランスのマクロン大統領(写真:REUTERS/Carlo Allegri)

こうしたトランプ大統領の主張を真っ向から批判したのがフランスのエマニュエル・マクロン大統領だった。

現在の国際情勢が危機的であるという認識を示したうえでマクロン氏は、これから先いくつかの道があるがその1つが「適者生存」の道だと指摘した。「みんながそれぞれの法律に従おうとする単独行動主義の道だ。これは論争や摩擦を広げ、全員が損をする」「適者生存という道はフラストレーションを増やし、暴力を増やすだけだ」と述べた。「適者生存」とは、環境に適した生物だけが生き残るという考えであり、マクロン氏はそれがトランプ大統領の考え方に通じるものがあるとして、間接的ではあるが批判しているのだ。

そしてマクロン氏は世界がとるべき道として、多国間主義の重要性を強調した。「平和実現のためには多国間のシステムを再構築し、現実的な手法で紛争を解決していくべきだ」「ナショナリズムの騒音がいつも破局を招くことを忘れてはならない」と、歴史観あふれる世界観を展開した。トランプ大統領という言葉は一度も登場しないが、繰り返し単独行動主義や大国主義を批判している。

だからと言ってトランプ大統領とマクロン大統領が犬猿の仲というわけではない。言うべき時には米国に対してもストレートに物を言う。歴史的にアメリカとの距離感を重視してきたフランスらしい巧妙な演説だ。

メイ首相「メディアの独立は民主主義の基盤」

EU 離脱交渉で難渋するメイ首相もジョークを交えてトランプ大統領を批判(写真:REUTERS/Caitlin Ochs)

アメリカとは特別の関係と言われる英国のテリーザ・メイ首相も黙ってはいなかった。

「英国民はEU(欧州連合)を出るという投票をしたが、それは多国間主義や国際協調を否定したのではない」「こういう時のリーダーシップははっきりしている。価値を共有して、同盟国や仲間と国際的に協力していくことだ」などと述べて、やはりトランプ大統領の身勝手な自己中心的外交を間接的に批判している。

メイ首相は英国的なジョークも忘れなかった。

現在、メイ首相はEU離脱をめぐる交渉が難航し国内メディアから連日のように批判されている。そんなことを念頭に、「各国首脳の皆さん同様、私は英国のメディアが自分について書いていることを読むのは楽しくない。しかし、メディアがそういうことをする権利を私は守る。メディアの独立というのは英国の偉大な業績の一つだ。そしてそれは民主主義の基盤でもある」と述べた。

これは自らを批判するメディアをフェイクニュースと揶揄し、「メディアは国民の敵だ」と言い切ったトランプ氏への痛烈な批判以外の何物でもない。聞く側が思わずニヤリとしてしまうような表現はさすがというべきか。

マクロン大統領やメイ首相のトランプ大統領に対する批判はともにストレート・パンチではなく、それぞれの味がある。単純な批判ではなく、どこか物分かりの悪い頑固者に対し、人類の歴史や世界のあり方を踏まえつつ諭すようなトーンでもある。同時に国際社会の主要な担い手という自覚や責任感と、現状への強い危機感を感じさせる。

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