樹木希林さん「難の多い人生は、ありがたい」 不登校経験者たちに語っていた言葉
歩き競争が「よーい、ドン」で始まると、小っちゃい子たちがワチャワチャやってるなか、私だけすぐゴール。断トツの一等賞よ、なんせ身体が天と地ほどもちがうんだから(笑)。でもね、表彰式で私ニンマリ笑ったらしいの。私も誇らしかったのを覚えています。これが私の財産なんです。まわりと自分を比べて恥ずかしいだなんて思わない。おねしょだって恥ずかしいとは思ってなかった。こういう価値観を持てたのはありがたかった。勝因とさえ言ってもいい。これはもう親の教育に尽きますね。親がえらかった。
思い返せば、うちの両親はとにかく叱らない親でした。「それはちがうでしょ」と言われた記憶がない。記憶にあるのは「あんたはたいしたもんだよ」と言われたこと。子どもってヘンなことを言うでしょ、ヘンなこともやるでしょ、それをいつも「たいしたもんだよ」と両親は笑ってる(笑)。子どもを見ているヒマのない時代でしたが、ふり返ってみれば、それでもえらかったなと思うんです。
石井 私の祖母も「誰かと自分を比べるような、はしたないことはダメ」と言ってましたが、その一言は、不登校だった私を支えてくれました。
樹木 そう、そういうことを昔の女性は言えたの、ホントに立派だわ。こう言っては悪いけど、そこらへんのおばあさんでしょ。お坊さんでもなんでもない、ただのおばあさんが「比べるなんてはしたない」と言えるんだもの。
子どもはちゃんと自分で挫折する
石井 樹木さんが親になられてからも「叱らない」というのは気をつけていましたか?
樹木 干渉はしなかったです。気にしていたのは食べることだけ。どんなにまずくても、そこらへんのものでは間に合わせず、自分たちでご飯を出していました。でも、それだけですね。
石井 お孫さんがいらっしゃるんですよね?
樹木 しょっちゅう迷惑をかける孫がいるんですよ。よく親のほうが鍛えられてます(笑)。
まあ娘にも言ってるのが、「そのうち、ちゃんと自分で挫折するよ」って。まわりはやきもきするけど、あれもこれも親が手を出してあとから「たいへんだったんだから」と言うよりは、本人に任せていくほうがいい、と。
子ども若者編集部メンバー 話は変わりますが、私は人間関係で難しいな、と思うことがよくあります。どうすればいいのでしょう?
樹木 それはへんなかたちで自分を大切にしているからでしょうね。これも親の教育の賜物で、私は自分の評価にこだわらなかったから、本当に自分をぞんざいに扱ってきました。というか、人と揉めるのがへっちゃらなの。たとえば人から贈り物をいただく。でも、だいたいの贈り物って始末に困っちゃう。だから、贈り物に「いりません」って書いて送り返したりしているんだから(笑)。
子ども若者編集部メンバー すごい(笑)