スポーツ界のパワハラを「承認欲求」で読む 競技者だけでなく「指導者」にも光を当てよう

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くり返しになるが、承認欲求はだれにも存在するものであり、それを満たそうとするのはむしろ自然なことである。しかも、いちど競技者として脚光を浴びた経験があれば「認められたい」という思いが強くなるのも理解できる。

アスリート・ファーストの前に指導者にも目を向けるべき

そこで、アマチュアスポーツの世界でも、指導者が正常な形で承認欲求を満たせるような環境を整えていくことが必要になる。

その際の前提として、指導者と選手とは上下関係ではなく対等な関係を目指すべきである。実際に高校野球や大学ラグビー、大学駅伝などでは、スパルタ式の指導から選手の自主性を尊重する方針に切り替え、チームの躍進につながったという例は多い。

そして指導者が組織の外でも認められるようにするためには、それぞれの競技団体がチームの指導者をもっと積極的に表彰したり、表舞台に登場する機会を与えたりすることが大切だろう。さらに優秀な指導者のスカウトが盛んになることも望ましい。

『承認欲求』(書影をクリックすると、アマゾンのページにジャンプします)

また指導者自身も、従来のように黒子に徹するのではなく、選手のパートナーとして前面に立とうとすればよいのではないか。箱根駅伝4連覇中の青山学院大学、原晋監督が選手とともに積極的にマスコミへ顔を出そうとしている姿に、心のなかでエールを送っている指導者は少なくないと思う。

ところで企業では近年、「CS」(顧客満足)と並んで「ES」(従業員満足)が重視されるようになっている。顧客に満足してもらうためには、顧客サービスに携わる従業員自身の満足度を高めることが必要だと認識されてきたからである。同じことはスポーツ界にも当てはまる。「アスリート・ファースト」を貫くには、選手を支える人々にも目を向けなければならない。

アマチュアスポーツの指導者がもっと認められるようになれば、単に暴力やパワハラの防止につながるだけでなく、優れた人材が指導者を目指すようになり、選手のレベルアップにもつながるはずだ。今回のパワハラ騒動を、指導者の置かれた立場を考え直すきっかけにしてもらいたい。

太田 肇 同志社大学名誉教授

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おおた はじめ / Hajime Ohta

兵庫県出身。同志社大学名誉教授。経済学博士。主な研究分野は個人を生かす組織・社会づくり。日本における組織論の第一人者として著作のほか、働き方改革や社員のモチベーションアップなどに関するマスコミでの発言、講演なども積極的にこなす。また猫との暮らしがNHKで紹介されるなど、愛猫家としても知られる。著書は、『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書)、『「自営型」で働く時代』(プレジデント社)、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)、『日本人の承認欲求』(新潮新書)など40冊以上あり、大学入試問題などに頻出している。『プロフェッショナルと組織』(同文館出版)で組織学会高宮賞、『仕事人と組織』(有斐閣)で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

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