リーマンブラザーズを破綻させたことは、直接的に、急性の症状を激化させつつ、慢性症状の悪化をももたらしたので、「救済したほうがよかった」という議論はある。ただし、それでサブプライム問題を押さえ込めたかどうかは疑問のあるところだったし、公的な救済に対してはアメリカの世論の反対も強かった。また、率直に言って、リーマンブラザーズは特に「タチの悪い」金融機関だったので、「こいつまで税金で救済するのはいかがなものか」という気分が生じるのも無理のないところではあった。
「タチが悪い」という意味は、自己資本の何十倍にも及ぶ借り入れによるレバレッジを使ってリスクを取り、儲けたときは巨額のボーナスと株価の上昇をエンジョイして、失敗した場合には「俺たちが潰れると大変だぞ」と世間を脅して公的救済を求めるといったズルさを有した個人の集団だったという意味だ。
危機は今後も必ず起こる
さて、「バブルの崩壊」と「金融システムの機能不全」を共に伴うような危機は再び起こるのだろうか。また、起こるとして、それは差し迫っているのだろうか。
この疑問に対する筆者の答えは、自信満々というわけではないが、「バブルの崩壊はいずれ起こるだろう」、その場合の「金融システムの機能不全は、かつてよりは起こりにくいだろう」といったものだ。
「バブル」は、定義により、発生すれば、崩壊も起こる。では、どう発生するかというと、「過剰な借金で投資が行われて、資産価格が上昇することで起こる」。
過剰な借金は、金融ビジネスの利益追求、より正確に言うと、金融マン個人が会社の金を使って自己の利益を追求することによって起こる。
サブプライム問題で言うと、住宅ローンのセールスマンは信用力不足の借り手を相手にしてでも、ローンの実績が上がるとボーナスがもらえることが「得」だった。また、住宅ローンの証券化商品を組成し売り買いするトレーダーはレバレッジを最大に使って大きなリスクを取って大きなボーナス獲得に懸けるのが「得」だった。さらに、金融機関の経営者もリスクを抑制するよりもボーナスやストック・オプションを考えるとハイリスクで急拡大志向の経営が「得」であった。
付け加えると、証券化商品のリスクを評価する債券格付け会社の経営者や社員も、格付け対象の商品に「高格付けを与えて、次の商売をもらいやすくする」ことが「得」だった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら