10代半ばで凄惨な性暴力に遭った彼女の告白 時間はかかっても癒やされる日は必ず来る

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自身の回復について、エリさんは言う。

「周りの支えもあって、随分強くなったと思う。力を奪われてしまったと思っていたけれど、奪われたわけではなくて、自分にも力があることを思い出したり、信じられるようになったりして、私の場合は変わったと思う」

性被害はひどく軽視されることがある一方で、二度と立ち直れないような重たい被害だと決めつけられ、腫れ物やタブーのように扱われることもある。両極端だ。当事者のエリさんは、「回復にはたくさんの時間がかかる。でも癒やされる日は来る」の両方を伝えることが必要だと信じている。

「今も地獄からよく這い上がったなって自分を褒めて、褒めて。複雑だけど、そういう過程を社会はもう少し理解してほしい」

自分の力を信じている

以前、カウンセラーから「加害者のことをどう思うか」と聞かれたとき、「殺してやりたい」と答えたエリさん。もし日本に性犯罪の時効がなければ今から訴えたいとも思う。罪悪感のかけらもなかったあの加害者たちは、きっと親になっている。何を子どもに教えているのかと思うと悔しい。自分には子どもがいないことが悔しい。

昨年の刑法改正は一般的に「厳罰化」と言われるが、「集団強姦罪」は廃止になった(※3)。廃止の理由は罪を軽視したためではないが、それでも当事者のエリさんにとっては、集団強姦の被害者の気持ちが置き去りにされたような悔しさがある。

※3 強姦罪(現・強制性交等罪)の懲役の下限を3年から5年に引き上げることにより、集団強姦罪の量刑(懲役の下限4年)を超えたため。

一方で、最近受けた治療で同じことを聞かれたとき、自分では思ってもいなかった言葉が出た。

言葉にできないことを花で表現するのは、自分が満たされる体験だった(写真:高橋エリさん提供)

「彼らを子どもに戻して私が育て直したい」

それが本当に自分の本心なのか、半信半疑だとエリさんは言う。

「なんだかきれいごとに聞こえるし、犯罪者に許しを与えるみたいで許せないって思う人もいるだろうから、誰にでも話せることじゃない。私も半分は『本当にそんなこと考えてるの?』って思っています。でも、今自分が保育士の仕事をしていることとつながるから、納得できる部分もあるかな……」

花で表現する力、海外で働く力、40代からさらにチャレンジする力、回復の過程を言葉にする力。一つひとつ、丁寧に自分の力を探してきた。昔の自分のように居場所のない子どもに寄り添いたい気持ちもある。たとえ自分の子ではなくても、愛情を注ぐ力。きっとその力もあると信じている。

小川 たまか ライター

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おがわ たまか / Tamaka Ogawa

1980年、東京都出身。ライター。文系大学院卒業後、フリーライターを経て2008年から編集プロダクション取締役。2018年4月に独立し、再びフリーライターに。2015年頃から主に性暴力の取材に注力。Yahoo!ニュース個人「小川たまかのたまたま生きてる」などで執筆。『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)は初の著書。

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