10代半ばで凄惨な性暴力に遭った彼女の告白

時間はかかっても癒やされる日は必ず来る

「同僚も店のオーナーも怒ってくれて、大家さんも謝ってくれて。誰も『エリにすきがあったんじゃないの?』なんて言わなかった。そういう周りの反応に救われました」

その後、日本でカウンセリングを受けたとき、「自分が安心できる場所、逃げ込めるようなシェルターになる場所を思い浮かべて」と言われて想像したのは、南ドイツで見た広々とした丘。人生で何度かある忘れられない瞬間の1つは、「生きていてよかった」としみじみと感じたドイツでの日常のひとコマだ。

「あのとき、殺されておけばよかったんじゃないか」

けれど帰国後、エリさんは30代の前半を混乱の中で過ごすことになる。交際相手との婚約がきっかけだった。病院でのブライダルチェックで判明した不妊の可能性。担当した女性の医師が言った。

「若いときの性病を放っておいたんでしょう」

どうせ遊んでたんでしょうとでもいうような、見下した言い方。子どもが大好きなエリさんは、結婚したら早く子どもが欲しいと思っていた。でも、もう無理かもしれない、自分が望んだわけでもない性暴力が原因で。その現実を突きつけられたとき、事件の記憶を押し込めておけなくなった。あのとき、殺されておけばよかったんじゃないか。いっそ殺してと思ったあのときの気持ちがよみがえり、死を願うようになった。

仕事に行けなくなり、自殺未遂をした。婚約者は支えようとしてくれたが、彼が上司から「そういう女性はやめたほうがいい」と言われていると知ったこともあり、破談――。

その後は数年間、入院と通院が続いた。3年連続で入院したのは、松尾スズキの小説『クワイエットルームにようこそ』のモデルとうわさされる精神病棟だ。入院する時期は決まって2月から3月。被害に遭った季節が近づくと不安定になり、リストカットやオーバードーズを繰り返した。

「年が明けると『今年こそは入院したくない』と思うけれど、やっぱりその時期が来ると”死にたい病”になる。それでいつも、桜が咲く頃に退院するんです。当時は桜を見ると『今年も生きてる』ってホッとしました。桜は生きているという象徴だった」

カウンセラーには、しばらく性被害を話せなかった。父との死別、幼くして祖父母に預けられたこと、母に懐けなかった子ども時代、ネグレクトぎみだったこと、姉の家庭内暴力。いろんな話をするうちに、カウンセラーから「男性に対してなにかあるよね」と指摘され、ようやく少しずつ話すことができた。

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