不倫を「モラル」で断罪しないフランス人心理

「困ったこと」だけれど悪くはないという認識

時代は進んで2007年、国立図書館は「地獄図書展」という展覧会を開催し、地獄図書目録にある作品を16歳以上の観客に公開した。日本の春画も歌川国貞(うたがわ くにさだ)作『恋のやつふぢ』と勝川春章(かつかわ しゅんしょう)作『百慕々語(ひゃくぼがたり)』に加えて、下河辺拾水(しもこうべ しゅうすい)作の12枚組紅摺絵(べにずりえ)『欠題組物(けつだいくみもの)』が鳴り物入りで展示された。

また2014年には国立オルセー美術館が、フランス革命期のエロティック文学の最高峰でありながら19世紀には禁書とされた『悪徳の栄え』のマルキ・ド・サド侯爵(1740‐1814)没後200年を記念して、「サド侯爵展」を開催した。

ところでリベルタンを地でいったサド侯爵が生きたのは、1789年に起きたフランス革命とその直後、内ゲバの連続だった革命政府の「恐怖政治」の動乱期である。

サド侯爵は、後にナポレオンによってシャラントン精神病院に閉じ込められるのだが、その理由となった『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え(*5)』のあらすじは次のようなものだ。

修道院の中で教育されたジュリエットは、デルベーヌ夫人という修道院長から性の手ほどきを受ける。そして、モラル、悔恨、愛情といったキリスト教的な感情を頭から否定する修道院長にそそのかされ、悪徳の道を突き進むために「犯罪友の会」に入会する。リベルタンであるジュリエットの人生の唯一の目的は、「自分の快楽をとことん追求すること」。ありとあらゆるタブーを冒す。
理神論(注:神の存在は否定しないが、非合理的な奇跡、予言、啓示、神が人間に与える罰や地獄の存在を信じない立場)者であったテレーズよりさらに過激な無神論者で、キリスト教徒にとってもっとも聖なる日である復活祭に「あたしたちが不敬なことをやらかすのに、この日よりも都合の良い日はないわ。誰がなんと言おうとも、私は、キリスト教のもっとも神聖な儀式を涜(けが)してやることに心底からの快楽を感じるのよ。一年のこの日を、キリスト教は一番大事なお祭りとみなしているのですからね」と言って、「犯罪友の会」の仲間たちと思いっきり宴を開いて楽しむ。
家族や友人も殺害し、果てには実の娘をも弄(もてあそ)び、無残に殺害した挙句、「ご覧の通り、皆様、私は現在、こんな風に幸福な境遇にあります。そして正直に申しますが、罪悪を熱烈に愛しております。罪悪のみが私の官能を刺激するのですもの」と、すがすがしく宣言する(*6)。

なぜこんな作品がこの時代に生まれたのか

これまでに誰も書かなかった、いや、誰も直視したがらなかった人間の本性の闇をとことん暴いて見せたという点で、サド侯爵は、その後19世紀以降のボードレール、フロベール、ゴヤ、ドラクロワ、そしてシュルレアリストといった人々の文学、芸術、思想に大きな影響を与えた。

ただ、私が注目したいのは、このような作品がこの時代に生まれたことの意味である。

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