《よく分かる世界金融危機》金融危機から脱却するカギは何か
対照的なのはわが国だ。「欧米に1990年代の日本の経験を説明する」(中川昭一財務兼金融担当大臣)などと胸を張っていられたのも束の間のことだった。金融危機がわが国にも上陸し、金融市場が大混乱を来す中で、欧米の迅速な動きに完全に水をあけられてしまったからだ。少なくとも、10月24日の時点では公的資金注入に向けた欧米と同様の法整備はできていない。
滑稽なことに、わが国は破綻処理以外の公的資金スキームとして、実質的に見て、唯一残されていた根拠法、金融機能強化法を今年3月末に失効させてしまっている。10月下旬になって、政府は同法の復活作業に乗り出したが、欧米諸国のような迅速さは感じられない。
それを痛罵するように、金融市場は円資金の流動性リスクが表面化した。10月下旬、わが国ではコマーシャルペーパー市場が半ば壊滅しかけてしまった。これも流動性リスクの劇的な発生といえる現象だ。
少なくとも、10月下旬にかけての場面では、日本の金融市場のほうが欧米よりも凄惨さを増したのはそんな経緯からだ。
もっとも、それでは、欧米諸国のほうは10月の公的資金注入で万全かといえば、答えは「ノー」だ。欧米の銀行、投資銀行が内在させている証券化資産の潜在的ロスは巨額であり、10月の資本注入額ではカバーできそうもないからだ。したがって、金融危機からの本格的な脱却にはまだ時間がかかることは必至と言っていい。
しかも、世界的に実体経済が完全に冷え込み始めたことによって、金融と実体経済が交互に悪影響を及ぼし合う「悲しきキャッチボール」局面に入っている。実体経済の悪化に伴って銀行には不良債権が増大し、それによって、銀行の貸し出し能力がさらにそがれて、実体経済を下押ししていくというパターンができつつある。
それだけではない。金融危機の暗雲は現在、急速に新興諸国も覆うようになった。各国では通貨危機の色彩が増し続けている。もはや、BRICsもデカップリングも色あせ、インフレの恐怖はデフレへのおびえに変わってしまった。
世界経済の安定化への責務を負う先進国は、自国経済の混乱収拾のみならず、金融危機の真因を公的資金注入で効果的に解消していく必要がある。そうでなければ、流動性危機は小康を得たように見えても、次の瞬間には、さらに巨大化して金融市場や実体経済を潰しにかかるだろう。
最後に、金融危機は巨額の公的資金注入を通じて、財政危機に転化するという問題は残るが、今はそれを悩んでいる余裕などない。
<KEY WORDS>
金融機能強化法
日本の地銀など地域金融機関を対象にした公的資金注入のための法律。しかし、これは時限立法で、今年3月末に失効してしまった。政府は10月下旬になって、やおらその復活に動き出した。地域金融機関限定版ではなく、大手銀行や農林系統金融機関などにまで対象を拡大し、注入条件についても、経営責任を問わず、リストラも迫らないという大幅な緩和策をもって衣替えした法案の国会成立を目指している。
通貨危機
海外から流入していた資本が一挙に引き揚げるなどの劇的なダメージを受けて、その国の通貨が暴落すること。当事国は往々にして、手持ちの外貨準備が乏しくなり、自国通貨の防衛ができない状態に置かれる。海外資本の流出によって、当該国では流動性が不足し、景気が大幅に悪化していく。1990年代後半のアジア通貨危機がその典型例だが、現在、旧東欧諸国、アジア諸国、中南米諸国の間で、そのリスクが急速に高まっている。
(週刊東洋経済)
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