大手法律事務所以外のキャリア
質問者の方も法律事務所から聞いているかもしれませんが、最近では事務所から中央官庁へ任期付き公務員として出向することも多いものです。そうすると普段は弁護士として法令解釈だけをしていても、出向した役所の中だと制度改正にもかかわることがありますし、逆に実務で身に付けた知識を行政にフィードバックすることもできます。そういう意味では試験に受かって最初から官僚になってしまうと、規制対象(金融機関等のクライアント)が何を考えて日々生きているかの肌感覚をフィードバックすることは難しくなります。
役所の中も「国Ⅰ、何位?」的な試験を通ってきた人の序列があるものですが、有資格者ですとやはり重宝されます。法律事務所に入ってしまえば当たり前ですが、周りはみんな弁護士なのでただのアソシエイトです。試験に通ってまたもやパートナーになるための熾烈な競争では弁護士リトルハッピーかもしれませんし、アソシエイト間の競争をくぐり抜けてパートナーになると、今度は割り振られた予算を達成せねばなりません。なかなか社畜の安寧はないものです。
また、組織の規模感ですが官僚機構はもちろん大きいですが、大手法律事務所も普通に大きな組織です。東京にある外資系金融機関でも投資銀行部のバンカーが100人いればそれなりの大きさですが、4大法律事務所は弁護士数が300人を超えています。
ここでいったん整理しますと、弁護士になるにあたって熾烈な競争のある大手法律事務所のヒエラルキーを昇っていくキャリア以外に、行政側、規制当局側でのキャリアを考えることは、その後、また弁護士になったとしても差別化のために有用であること。一方で法律事務所から役所への出向という道もあることを念頭におきつつ、質問者の方がどういう環境で働きたいかが大切だと思います。
質問者の方は「国家公務員については、倒産の可能性がほぼなく」とコメントされており、わりとコンサバ風味な方かと推測します。そうであれば民間で競争に身を投じずとも、法令を解釈する側ではなく、ルールをつくる側として、わが国の国益のために志を持って頑張るのもやりがいがあることかと思います。資格があれば、たとえ辞めたとしても、役所でのネットワークを持ちつつ弁護士の仕事ができるのも保険となることでしょう。
筆者の勤務先(IGPI)はもともと、政府機構で働いていた人間たちがつくった会社ですが、その誰もが政府機構で働いた経験をすばらしい貴重な経験だったと言っています。筆者も米国財務長官のバックグラウンドのようなウォールストリートとワシントンの近さをすべてよしとはしませんが、ある程度の官民の行き来、リボルビングドアは経済・金融を担う役所には実務知識のアップデートとして必要だと思っています。
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