最強の「差別化」とは何か
まずは司法試験合格おめでとうございます。また、試験に受かっても就職活動において法曹三者だけでなく、官僚も考えてみるのは面白いかと思います。筆者の新卒就活の際は、勉強をした記憶もなく、すぐに食べていくためにビジネスのことしか頭にありませんでした。法律やら公的セクターに興味を持ったのは、ビジネスでかなり痛い目にあった後でした。質問者の方のように、たとえ有資格者であっても幅広に仕事を考えることはすばらしいことです。
今回は最初に有資格者(弁護士)の方のこれからのキャリアの重要なコンセプトを述べてから、目下のお悩みを整理したいと思います。質問者の方も薄々気づいているかと思いますが、増加する弁護士のピラミッドの最底辺からスタートする人に必要なのは「差別化」です。
法律事務所の弁護士のプロフィールを見ると、一般企業法務、国際取引、M&Aといった専門分野が載っています。しかしながら「差別化」を考えた場合には、これはまったく差別化できておらず、このプロフィールの次のレイヤーでの分解が必要になります。
たとえば企業法務であれば、企業のニーズを柔軟にくみ取ってジョイントベンチャーにおける種類株式を使ったキャピタルストラクチャーをメールした10分後に提案してくれるとか、国際取引やM&AであればEUでのM&Aにおける独禁法の企業結合規制における最新の判例に詳しいといった差別化が必要となります。質問者はこうした知識や経験を実務の長い旅路の中で身に付けていくことと思いますが、世の中にはもっとレベルの高い差別化があります。それが「当局と話せるということ」です。
たとえば金融取引において法令解釈が分かれる高度な領域は、結局、「そうだ! 金融庁に聞いてみよう!」になります。各省庁には法令適用事前確認手続(ノーアクションレター)と呼ばれる制度もありますが、もしここで「役所に詳しい友達がいるから聞いてみるよ」と言えると、クライアントにはたいへん受けます。「本当は検査官にオネエ言葉の人はいないよ」と言えても役に立ちません。
筆者も今年、公開買付規制関係でちょっと難しい法令解釈に関して、規制側にいたことのある弁護士にいろいろと聞くことができて、スキームを検討する際に役立てることができました。弁護士でも当局の考え方に詳しいのはすばらしいことです。
最近ではなかなかうまくいかないですが、クライアントがヤメ検(元検察官)に事件の落としどころを探ってもらうことを期待するのも近似でしょう。余談ですが、筆者は危機管理(クライシスマネジメント)をサービスメニューとしている広告代理店は、ヤメ検をギルドごと雇うといいと思っています。企業不祥事においてメディアコミュニケーションプランから第三者委員会の設置まで、ワンストップソリューションで提供できるのはすてきです。
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