ドイツがECB総裁より欧州委員長を望むワケ

メルケル首相の方針が変わった

今度こそドイツ連邦銀行総裁がECB総裁に就くと思われたが、メルケル首相は方針転換したようだ(写真:REUTERS/Hannibal Hanschke)

8月22日、独紙ハンデルスブラットは、2019年に立て続けに訪れるEU(欧州連合)トップ人事に関し、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が自国出身者を推すべきポストの優先順位を変えたと報じた。

メルケル首相率いるドイツ政府の第1希望は2019年10月31日に任期が切れるマリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)総裁の後任ポストといわれていた。ユーロ導入から20年もの月日が経過しようとしている中、ドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)のDNAを色濃く継いで生まれたECBのトップにドイツ人がいまだ一度も就いたことがないという事実は異常だ、という指摘には説得力がある。

次期総裁人事については現在の副総裁ポスト(2018年6月~)を断念したアイルランド中央銀行総裁のフィリップ・レーン氏とドイツ連邦銀行総裁のイェンス・バイトマン氏の一騎打ちであり、どちらが就任してもタカ派寄りかつ史上最年少のECB総裁が誕生するという着地が想定されていた。

ECB総裁よりも「格」が上の欧州委員長

しかし、上記報道によれば、メルケル首相の第1希望はECB総裁から欧州委員会委員長(以下欧州委員長)に変わったという。理由はいくつか考えられるが、①そもそも欧州委員長のほうが「格」が上であること、②ECB総裁よりも勝率が高そうなことが考えられる。日本ではECB総裁に比べてあまり注目されない印象がある欧州委員長だが、権力は圧倒的に欧州委員長のほうが大きい。ブンデスバンクを擁する国家の矜持を脇に置けば、「勝率が高ければ欧州委員長のポストを望む」という決断は政治的嗅覚に優れるメルケル首相ならばいかにも下しそうなものである。

欧州委員長にかかわる基本情報を整理しておこう。任期は5年で通常は欧州議会選挙の半年後から起算する。次回の欧州議会選挙は2019年5月なので、新たな欧州委員長は同年11月に就任することになる。なお、再任は可能でジャン⁼クロード・ユンケル委員長(元ルクセンブルク首相)の前任であるジョゼ・バローゾ前委員長(元ポルトガル首相)は2期10年在任した。しかし、昨年2月、ユンケル委員長は2019年10月31日の任期満了をもって退任する意向を表明した。

つまり、2019年10月31日にはECB総裁と欧州委員長という2大重要ポストが同時に交代を迎えることが確定しており、下馬評ではドイツとフランスがこれを分け合うという声が多い。

欧州委員長の権限が強いといわれるゆえんは、自身が率いる欧州委員会の政策方針をまとめあげ、欧州議会に対し法案を提出する権利を持つことである。欧州委員会はEUの行政府であるため、事実上、EUの向かうべき方向を規定することができる立場ということになる。また、ほかの欧州委員の解任権も有する。

日々の報道でも目にするように、G7(先進7カ国)サミットやG20(先進20カ国・地域)サミットといった国際会議にもEUの代表として出席している。なお、EUからは欧州委員長に加え欧州理事会議長も出席するので、この2つがEUにおいてとりわけ高級なポストということがわかる。そのほか、欧州委員長の権能の高さを示す事実は多いが、要するに欧州委員長はEUを国とすれば元首に近く、その存在感が格別大きい。いわば専門機関の1つにすぎないECBのトップ(総裁)とは文字どおり「格」が違うということになる。

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