ドイツがECB総裁より欧州委員長を望むワケ メルケル首相の方針が変わった

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では、欧州委員長はどのように選ばれるのか。通常、欧州議会選挙で最大勢力となった会派の指名候補が就任する可能性が高い。現在の最大勢力は中道右派の会派である欧州人民党(EPP)で、同党を含めた各党は今秋にも指名したい委員長候補を決めることになっている。ちなみにドイツ人の欧州委員長は欧州経済共同体 (EEC) の下で発足した最初の委員会において委員長に就いたヴァルター・ハルシュタイン氏(1958年1月~1967年6月)までさかのぼる必要がある。EUが現在の形になってからはECB総裁同様、ドイツ人が就いた例は一度もない。

次期欧州委員長の候補としてはブレグジット(英国のEU離脱)交渉におけるEU側の責任者であるミシェル・バルニエ首席交渉官(元フランス外相、元欧州委員)の名前がよく挙がる。そのほかではEU競争法(いわゆる独占禁止法)違反にちなんで米IT企業に巨額制裁金を科すなど大胆な立ち回りを見せている競争政策担当の欧州委員であるマルグレーテ・ベステアー氏(元デンマーク経済相・内相)が現在の欧州委員会では存在感が大きいといわれている。

バルニエ氏かベステアー氏か、まだ流動的

また、EU関係者以外ではクリスティーヌ・ラガルドIMF(国際通貨基金)専務理事を推す声もあるが、欧州で主要ポストが空くと同氏の名前は必ず挙がるのでもはや、言っているだけの感もある。前回、ユンケル欧州委員長が選任される際にも名前は挙がったし、次期ECB総裁や次期フランス大統領という呼び声すら聞く。ちなみに前回の欧州委員長人事の際、メルケル首相はラガルド専務理事を希望していたともいわれ、ドイツ受けもよい。だが実際は、ラガルド専務理事の任期は2021年6月まで残っており、可能性は決して高くはない。

現状、英国政府との交渉を仕切り、メディアにも頻繁に名前が登場し、欧州委員の経験もあるバルニエ氏は欧州委員長として申し分のない候補に思われるが、同氏はフランス最大野党である共和党の出身である。与党「共和国前進」を率いるエマニュエル・マクロン大統領がバルニエ氏を当初から全面支持するのは難しいと考えられるだろう。

「共和国前進」が初体験となる2019年5月の欧州議会選挙でどの会派に属することになるのか定かではないが、中道会派である欧州自由民主同盟(ALDE)などが取りざたされている。しかし、ALDEの意中の候補はベステアー氏といわれており、この点がバルニエ委員長誕生への障害となりそうである。他方、ベステアー氏は知名度に欠け、EUの顔として適切なのかという声はあるだろう。つまり、次期欧州委員長人事は依然流動的であり、だからこそ各会派が指名候補者を絞っていない今の段階でメルケル首相の変心を伝える報道が出てきたのだと思われる。

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