松本人志が失敗重ねて達した唯一無二の境地 2度の低迷期を乗り越えた「笑いのカリスマ」

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もともと松本はテレビやライブだけにはこだわらず、自らの笑いを表現するための場所を積極的に開拓してきた。

1993年には自身が企画・構成・出演を務めた『ダウンタウン松本人志の流 頭頭』というビデオをリリースしている。1998年には『HITOSHI MATSUMOTO VISUALBUM』というビデオ(のちにDVD)を出しているし、2006年には第2日本テレビというインターネットテレビ局で「Zassa」というコント映像を有料で配信した。

そもそも映画監督業を始めたのも、そういう意識の表れだろう。地上波テレビ以外で芸人が面白いものをつくる表現の場が広がっている現状は、松本のようなアーティスト型の芸人にとっては、むしろ好都合なのだ。

コメンテーターとしても唯一無二

最近の松本の新たな動きとして注目すべきは、2013年に始まった『ワイドナショー』(フジテレビ系)でコメンテーター業に乗り出したことである。松本の発言はネットニュースなどで紹介される率が高い。松本がニュースについて何か意見を述べるだけで、そのこと自体がニュースとしての価値を持ってしまうのだ。時事ネタにコメントをするというのは松本の資質に合っている仕事だ。なぜなら、松本には何ものにも流されない独自の視点があるからだ。

この記事は、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』に掲載した内容の一部を加筆修正したものです(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

テレビ局がどう思っていても、事務所がどう思っていても、松本は自分が思うことを率直に述べる。そこにウソがないということを、視聴者もみんな知っている。自分の地位や立場に縛られず、独自の目線で言いたいことをそのまま口にすることができて、そこに笑いどころを足すこともできる。そんな松本の「コメント芸」は唯一無二のものであり、これが面白くならないはずはない。

ネット上のSNSなどでは、世間で話題になっていることに関して、個人が好き勝手に意見を言う。いわば、「一億総コメンテーター化」とでも言うべき状況になっているのだ。情報バラエティ番組がやたらと増えているのには、そういう背景がある。

『ワイドナショー』は、「一億総コメンテーター化」する社会に対する、松本なりの解答である。誰もが気軽に時事ネタについて何か言える時代だからこそ、誰にも言えないコメントができる松本の特別さが際立つ。

松本は、笑いのカリスマとして、つねに「次に何を言うんだろう」と注目される存在であり続けてきた。そんな彼にとって、コメントそのものが売りになるコメンテーターは、まさに天職である。笑いだけにこだわる昔の松本であれば、このような仕事を引き受けることはなかっただろう。

新しいことに挑み、過去の自分のイメージを更新し続けているからこそ、松本はずっと最前線を走ることができるのだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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