松本人志が失敗重ねて達した唯一無二の境地 2度の低迷期を乗り越えた「笑いのカリスマ」

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しかし、映画やコント番組が不振に終わったことで、そんな松本の不敗神話にも陰りが見えてきた。特に、映画が立て続けに不評に終わったことで、「松本がつくるものだったらなんでも面白いわけではない」というイメージが広まってしまった。これが逆風となってダウンタウンを苦しめることになった。

そんな状況から松本が再び注目されるきっかけになったのは、彼が手がけたひとつの作品だった。2016年にAmazon Prime Videoで配信開始された『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル(以下、『ドキュメンタル』)』である。

「新しい表現の場」をつねに開拓してきた

参加費100万円を手にした10人の芸人が密室に集まり、優勝賞金1000万円を目指して本気の笑わせ合いをする。地上波では絶対に見られない緊張感のある「なんでもあり」のバカ騒ぎは多くの人を魅了し、ネットバラエティ番組の歴史を変える大ヒットコンテンツになった。

『ドキュメンタル』で重要なのは、そこに出てくる芸人が、いずれもテレビで名の知れた売れっ子ばかりであるということだ。彼らは、地上波テレビのフォーマットの中で、その才能のすべてを発揮できているわけではない。地上波テレビという場になじまない種類の笑いは、彼らのなかに封印されてしまうことになる。そんな彼らが制限の少ないウェブという場所で芸人としての全力を出し切る、というのが『ドキュメンタル』のコンセプトだ。

もちろん、そこには「あの松本人志からのオファー」という大前提がある。松本の名を冠した企画で、松本が別室で見守るなかで笑わせ合いをしなければいけないからこそ、彼らは持てる力のすべてを出し切って、真剣に企画に向き合うことになる。

『ドキュメンタル』の企画は、笑いの権威である松本がウェブで手がけるコンテンツとしては、このうえない最適解である。だからこそ、多くの人に視聴される人気コンテンツになったのだ。

NHKのコント番組は低視聴率に終わったが、実は松本にとってはこれまでのやり方を変える、いいきっかけになったのかもしれない。その後、NetflixやAmazonの台頭によって、ウェブで予算をかけたオリジナルコンテンツをつくる土壌ができて、その流れにスムーズに乗ることができたからだ。

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