ストックの比重増に対応していない財政
ストック・フロー比の上昇に対応していないのは、財団や年金基金だけではない。財政もそうだ。
第1に、日本の税体系は、基本的にはフローである所得に課税する仕組みになっている。所得税、法人税がそうだし、地方税の住民税、事業税もそうだ。消費税もフローに対する課税だ。ストック課税は、国税では相続税、地方税では固定資産税だが、税収中の比重はあまり高くない。固定資産税は、さまざまな観点から地方税として適切なものと考えられ、英米では地方財政の主要な財源となっている。しかし、日本では、不動産の評価額が低いため税収が少なく、地方税の中心は、フロー課税である住民税や事業税だ。
こうした税体系は、高度成長期に確立されたものだ。資産蓄積が十分でなかったその当時においては、適切なものであったが、現在では、大きな問題を持つに至っている。
税制は、なぜストック・フロー比の上昇に対応できないのだろうか。所得税の大部分は源泉徴収によって比較的容易に課税できるのに対して、資産課税には調査が必要という違いはある。しかし、不動産などは、現在でも捕捉されている。金融資産を捕捉できないのは、分離課税が導入されたためだ。これは、政治的な事情によるものである。
フロー課税への偏りは、世代間の所得移転をもたらす。資産保有者は主として高齢者であり、労働者は主として若年者だから、フロー課税中心の税体系では、若年者が比較的重い負担を負う。それに対して高額の資産を持つ高齢者は負担を免れる。
財政がストック・フロー比の上昇に対応していない第2のポイントは、社会保障の構造に見られる。
伝統的な社会においては、老後生活は自助努力で支えられた。人々は、若年時に貯蓄をして資産を蓄積し、退職後にそれを取り崩して、老後生活の資金にする。しかし、福祉国家においては、老後生活の面倒を国が見ることとなった。現在の日本でも、年金、医療、介護の面で、手厚い給付が行われている。
問題は、費用負担の構造である。年金の場合、私的年金は、積立てた保険料の元利合計によって給付を賄う。この方式を「積立方式」という。金利の低下によって問題が生じていることは、これまで述べてきたとおりだ。ところが公的年金の場合には、若年者が負担する保険料によって給付を賄うことができる。これを「賦課方式」という。日本の公的年金は、いまや実質的に賦課年金になっている。したがって、高齢者への支出を若年者が負担する形になっている。
医療保険の場合には若干複雑だが、給付は高齢者に対するものが多く、負担の多くは若年者が負う。介護保険でも、受給者は主として高齢者であるから、ここでも高齢者への支出を若年者が負担している。これに加え、一般会計からの補助も行われる。先述の税構造によってこの負担も主として若年者が負っている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら