香川の離島が「現代アートの聖地」に化けた訳 安藤建築と「3人の芸術家」の融合という難題

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島の南側は国立公園に指定されている。だからできるだけ人工物を見せないという方針で進められてきた。安藤さんも地形を生かし、建物の外観ができるだけ目立たないようにと建物を地下に埋めてきた。今度の美術館もその方向であるが、それをより徹底して美術館まるごと地中に埋めようというのである。

『直島誕生』の出版記念イベントが、9月7日に京都、9月8日に大阪で予定されています。写真は地中美術館の入口(編集部撮影)

ベネッセハウスのカフェから眺める風景はいかにも瀬戸内らしく、穏やかなものであった。福武さんとデ・マリアのふたりは、これから建つことになる遠くの緑の山を眺めていた。

次いで、安藤さんが直島を訪問することになった。そこで福武さんと会い、美術館の敷地を決める。福武さんはすでに決めていた場所を安藤さんに見せようと山に向かう。われわれも後に続く。ベネッセの美術メンバー、直島の運営メンバー、それに鹿島建設のメンバーである。

福武さんは慣れたもので、長靴姿のままスタスタと山のなかに入っていく。しばらく行くとコンクリートの人工物が出てきた。低い松林にかき消されて見えなかったが、足元にコンクリートで張り巡らされた面が出てきたのだ。塩田の跡である。

塩田ではまず、塩をつくるための海水を山の上にくみ上げて、海水をためる。そして水分を蒸発させたのち、余った海水を効率よく抜く。そのために、ちょうど段々畑のような形状で流下式塩田は丘の下まで広がっている。コンクリートはその塩田の跡である。

美術館の方針を伝える

敷地はある程度整地されている。福武さんはもともとこの場所がいいと思っていたらしい。確かに理にかなっている。すでに構築物の痕跡があるので道からのアプローチがしやすいし、整地のための工事も少しは楽である。国立公園内での建築物の申請もしやすい。安藤さんも「ええなあ!」と力強い声で返す。この瞬間に正式に場所が決まった。

さて安藤さんにお願いするとなれば、まず僕がやるべきことは今回の美術館の方針の説明である。安藤さんは数多くの建築案件を抱えており、いつも忙しい。そのために担当者がいるが、直島はベネッセハウスの建設当初から岡野さんという方が担当されている。その岡野さんにまず、今回の美術館の方針を説明しなければならない。

示したのは次のことだ。

「3名の芸術家の作品を見せる。それぞれに独立した部屋が必要である」
「それぞれの部屋では常設で作品を展示する」
「それぞれが自ら設計するタイプの作家であるから、内部に関しては作家に任せてほしい」

僕はポンチ絵のようなものを描きながら、美術館について説明した。立方体のギャラリーがそれぞれあり、長い通路でつながれている。互いのスペースが干渉し合わないようにするための距離をとる。

それと、これが最も大事なことだが、安藤さんもアーティストのひとりとして、「世界はどのようなところか」という問いを持ちながら内部空間をつくってほしい。建築的な機能として最低限必要なものはあるが、それ以外は人がどのように建築空間を体験するかだけを考えてほしい。そう、岡野さんに伝えた。

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