「フランス料理に日本酒」が増えている理由 ワインが苦手な「料理の7要素」とは?

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10年程前から、食の健康志向を背景に、フランス料理に多用される乳製品を減らし、またコース全体の構成も肉や魚の量を減らし、代わりに野菜などの素材を生かした料理へと変わってきた。バター、生クリーム、ヨーグルト、チーズなど、フランス料理には欠かせない素材の使用量は激減、肉のポーションは半分、魚は3分の2になった。

10年程前、ソースをエスプーマという器具にかけて“泡化”し、食事に軽さを出す手法が流行した。ソースの量が4~5倍に増えるためコストダウンにもなり、素材のうま味をより引き立たせることが目的だったが、5年程前からは“小さな肉にスパイス、それに岩塩を1粒だけ載せて提供”といった方法へと変化している。

この方向性はさらに進み、素材の火の通し方も変わってきた。現在、パリの一流レストランでは、備長炭を使った炭火焼き料理が当たり前になってきているほか、味の一部として“酸味”を生かすようになってきた。炭火でゆっくりと焼き上げ、余分な脂を落としたうえで酸を用いることで、長期的に食しても健康を害さないヘルシーなフランス料理が創造されているのだ。

こうした中で、日本ではおなじみの日本食向けの素材が取り入れられたフランス料理が増えているのも、決して偶然ではない。提供する皿の材質やデザインが日本化し、日本風の出しまでも使われ始めた。

ワインが不得手とする「7つの要素」

料理が変化すれば、それに合わせるべきワインも変わらねばならない。フランス料理の技法に変化はないが、使用する素材が変化し、味付けの方向性も変わったためだ。しかし、ワインというお酒のフォーマットは変えることができない。

それゆえに変化するフランス料理に対して、勧められるワインを見つけられない一流の感覚を持つソムリエたちは悩んでいた。相性のよいワインをグラスでサーブしようにも、最新のフランス料理にはワインが不得手とする7つの要素が盛り込まれているためだ。

7つの要素とは、「うま味」「苦み」「卵」「くんせい」「酸味」「辛み」「ヨード香」である。

たとえば、うま味という要素は穀物から造る日本酒には本質的に含まれているが、ワインにはない。うま味は精米度が低いほど多いため、純米酒は濃い料理、吟醸酒はサッパリとした味わいの料理に合う。

苦みは以前のフランス料理なら嫌われていた要素だ。しかし近年、フランス料理で根菜のスープや抹茶、白菜、ニンジン、パネ(白ニンジン)などの野菜が使われ、これらはすべて苦みを含む。ずっと昔からフランス人も愛してきたアスパラガスは、まさにワインに合わない素材の代表格で、アスパラギン酸とワインがケンカをしておいしく味わうことができない。

硫黄臭いフランス流のゆで卵やマヨネーズ、魚卵やくんせい、辛みのある素材やヨード香を持つ海藻なども、ワインとともに食してもまったくおいしさを加速させないどころか、むしろ食材のクセを強調してしまう。

しかし、日本酒はもともと苦みを含む野菜との相性がよく、ハーブを多用した料理とはなじみやすい。もちろん、干物や魚卵などは典型的な好相性素材だ。近年、フランス料理に多く取り入れられている生姜、わさび、山椒、それにクミンなどのスパイスとの相性もよい。海苔などヨード香を持つ素材とケンカしないのは、日本人ならば誰もが知っている。

ワインと日本酒、いずれも酒としての特性は変化していないが、フランス料理のほうが日本食に近い料理の組み立てへと近付いたということだ。

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