「フランス料理に日本酒」が増えている理由 ワインが苦手な「料理の7要素」とは?
しかし、必ずしも大吟醸ばかりが好まれるわけではない。精米度合いの高い大吟醸は雑味が少なく“澄んだ”味わいだが、純米酒は複雑でより濃厚な味わいとなる。合わせる料理によっては、後者のほうがベターということも多くあるからだ。
このように、日本の料理を楽しむための日本酒ではなく、フランス料理とのマリアージュという視点で選ばれているのが「Kura Master」というわけだ。実際に選ばれた12種類の純米酒、吟醸酒、濁り酒を味わってみると、前述したようにアルコール感が少なく、香りを楽しむことができ、また舌触りが滑らかでトロッとした感触の酒が多い。
しかし、一方で味わいの深さや複雑さはバリエーションに富んでいる。フランス人がフランス料理のために日本酒の味わい方を研究し、選評しはじめたことで、今後は蔵元たちにも新しいインスピレーションを与えるようになるだろう。
宮川氏はフランス人が日本酒に対する見方を変えてきたように、日本の蔵元、あるいは日本酒流通にかかわる人たちの考えも変えねばならないと話す。それはたとえば、「日本酒は新鮮なものが最もおいしい」「熟成がきくワインとは違って仕入れ、在庫の管理が大変」といった誤った固定観念を、日本酒の故郷である日本人が持っていることだと宮川氏は指摘する。
日本酒は新鮮なほうがいいというが、それは温度管理がなされない場合の話で、一般的な冷蔵庫の温度(5度)で保管すれば日本酒は長期保存も可能だ。また、ワインは開栓後、2日以内でなければプリザーバーなどを用いても劣化してしまうが、質のよい日本酒は冷蔵庫に入れておくだけで2~3週間は開栓後も品質を保持できる。
つまり、グラスで提供するお酒としてはワインよりも管理が楽なのだ。料理とのペアリングで合わせる酒として提供しやすいだけでなく、リスト中の“グラス提供可”とする酒にも置きやすい。
「日本酒は熟成しない」という誤解
加えて“日本酒は熟成しないが、ワインは熟成する”という誤解も、あらためるべきだと宮川氏は指摘した。
「日本酒を本格的に熟成させた例はあまりない。しかし、実際に品質劣化しない温度で長期間保存した日本酒を味わうと、“まろみ”を帯びてトロッとした粘性を感じる感触を舌が感じるようになる」と宮川氏は話す。
実際に、その場にたまたまあった、氷温で3年間貯蔵していたという日本酒を試飲してみると、舌を包み込む柔らかな感触を感じたが、一方で“枯れた”という印象もなかった。品質に大きな変化を来さないまま、エレガントさのみが上積みされていたというのが率直な感想だ。
ワインは欧州の気候の中で、地下の気温変化が少ない、比較的涼しい場所に貯蔵され、結果として“熟成するとおいしくなる”という経験が積まれていった。古いヴィンテージのワインが珍重されるゆえんである。
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