なぜ日本の住宅は「本物」の木を使わないのか 「木のイノベーション」が日本の地方を救う

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何しろ、日本はフィンランドやスウェーデンに次ぐ「世界第3位の森林国」である。その木を普通に使う、地域の木で地域の住宅を建てるほうが素直だと思う。

またエネルギー的な側面からも理にかなう。森林を使って住宅を建てるとはどういうことか。日本は「資源が少ない」と言われ、エネルギーの自給率5.5%程度だ。先進国の中でも極端に少ない。その内訳で特徴的なのは、住宅や業務を合わせたいわゆる民生部門、つまり建物でエネルギー全体の3分の1を使っていることだ。このエネルギーの話は、「パリ協定」の遵守をするにあたっても、たいへん重要である。

経済産業省の試算によると、2030年までに二酸化炭素の排出量を、日本全体で26%削減しなければならない。同省はそのために 住宅、民生部門の削減率を40%で設定している。その一方で経産省は「2030年までに新築住宅の半分をZEH(ゼロエネルギーハウス)にする」としているが、この目標では「住宅、民生部門の削減率40%」は無理そうである。

「木のイノベーション」が日本の地方を救う

もう一度、話を最初のビジネスと家の話に戻してまとめよう。今までの日本のさまざまなビジネスモデルは、ほとんどが人口増加時代用のものである。 家で言えば新築で、スクラップアンドビルドしていくのが当たり前だった。需要が増えるので、そうしたほうが、効率が良かったからだ。どんどん必要な床を作っていったわけだ。人口増加時代なら作ればさしてうまく作れていなくてもすぐに埋まったし、新しいものも好まれた。

しかし、今はこのやり方は通用しない。人口減少の局面で有効なのは、徹底してあるものを使うということだ。空き家然り、森林然り、労働力然り。今あるものをどうやって組み合わせ、新しい価値を生むかということである。外部から輸入しているエネルギーを減らし、身近にある森林を使う。またその過程で出た残材をエネルギーで使うのだ。

そうやって「外部に依存していたもの」を内部で置換していくのだ。もしエネルギーのように、外に払っていたお金が減って、地域にお金が落ちること になれば、そのお金は再び、地域に投資されるようになる。そうやって、外部にお金が出ないやり方をしていくことが大事である。地域の側から見れば、住人が健康になって、病気にならなければ、医療費も減る。

住宅産業はどこにでもあるので本当に見過ごされやすい。だが、一つひとつの商品は高価格である。住宅産業で「木のイノベーション」が起これば、地域の中で大きなお金が動く。高単価で地域が潤い、エネルギー消費は減り、人々の健康は増進する。まさに、「一挙三得」な成長分野である。

竹内 昌義 建築家、大学教授

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たけうち まさよし / Masayoshi Takeuchi

1962年生まれ。東京工業大学大学院修了。1991年に竹内昌義アトリエを設立した後、1995年に設計事務所「みかんぐみ」を共同設立。2001年からから東北芸術工科大学(山形県山形市)の建築・環境デザイン学科准教授となる。2008年から同教授。山形エコハウス(山形県が事業主体、環境省の21世紀環境共生型モデル住宅整備事業の一つとして選定)をきっかけに、環境・エネルギーに配慮した住宅を設計、紫波町オガールタウンの監修などを手がける。『図解 エコハウス』『原発と建築家』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。

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