ガンと闘いフットサル選手を続ける男の矜持 湘南ベルマーレ・久光重貴37歳の向き合い方
それでも、抗がん剤治療をしながら、トップアスリートとして活動するには、相当な説得が必要だっただろう。
久光は、当時を思い出すように語った。
「“生きなければ好きなこともできない。やりたければ、生きなさい”と言われました。 “じゃあ、生きていれば、自分がやりたいことに挑戦できるのですか?”という僕の問いに対しても、“できる限りのことをやったほうが良い”と担当する医師が僕の背中を押してくれました」
こうして久光は、これまでの5年間、検査と抗がん剤治療を繰り返しながらも、現役フットサル選手として活動してきた。そして、驚くべきことに、毎年、公式戦のピッチに立ち続けてきたのだ。
自分を変える体験をした幼少期
彼が持つ不屈の精神はどのようにして育まれてきたのだろうか。
その原点は、サッカーを始めた小学生時代にまでさかのぼる。小学1年生の時に、父親がコーチを務めるサッカークラブに入団したが、やり始めてしばらくは、サッカーがあまり好きではなかった。
サッカー少年としては少し太っていた久光は、父親の理想と自分の現実があまりにもかけ離れていることを感じ、父親の期待に応えられていないことに歯がゆさを覚えていた。いつからかサッカーが嫌いになってしまったのだ。
試合に出ることすらできなかった久光少年に転機が訪れたのは、小学5年生の時だった。この年に開幕したサッカーJリーグの華やかさを見て、“サッカー選手になりたい”と初めて思った。これがきっかけとなり、自ら進んでサッカーに取り組むようになる。
友達にバカにされても、周りに無理だと言われても、サッカー選手になるために自主練習も始めた。徐々に頭角を現し、ヴェルディ川崎ジュニアユース、帝京高校と進んでいくと、もう誰もバカにするものはいなくなった。
「好きになるきっかけと目標を持つことで、自分自身が奮い立たされて、ひたすら一人で練習するようになりました。きっかけさえあって、自分の気持ちが変われば、周りが何を言おうが、自分を変えられるという経験させてもらうことができました」
久光が、今もなお、自分を奮い立たせながら恐怖や困難に立ち向かうことができるのは、この幼少期の体験とも決して無関係ではないだろう。
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