「もう1つのW杯」に挑む、諸江剣語31歳の挑戦 プロサッカー選手の夢を諦めた男が目指す先
「よしっ、今日も自信をつけていこう!」
小柄だがガッチリした体躯の男は、大きな声を発すると、さすがに無理があるだろうと思われる重さ160kgのバーベルを、苦悶の表情を浮かべながら、一気に持ち上げた。その声の主は、日本フットサルリーグ(Fリーグ)所属フウガドールすみだのキャプテン、諸江剣語(31)だ。サッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会が開幕したこの日、諸江は薄暗いトレーニングジムの中で、パーソナルトレーナーの指導のもと、一心不乱に肉体改造に取り組んでいた。
「1人ではここまで自分を追い込むことはできませんし、身体の使い方も意識させてくれるので、プレーにも良い影響が出ています。調子はいいです」
2018-2019シーズンのFリーグ開幕を目前に控えたこの日の諸江は、2年間続けてきた肉体改造の手応えを明るい表情で語る。
フットサルとの出会いで抱いた希望
幼い頃から、スピードとテクニックに秀でていた諸江は、サッカーの名門、静岡学園高校でもレギュラーとして活躍したが、描き続けてきたプロサッカー選手になるという夢をかなえることはできず、卒業後に帰省した。失意を紛らわそうと、地元の友人に誘われてフットサルを始めた。
地元の石川県にある強豪チームに加入して全国大会に出場すると、当時国内最強と言われたプレデター浦安(千葉県)を相手に、何度もドリブルで突破していく衝撃のプレーを見せる。その試合を観戦していた当時のフットサル日本代表監督セルジオ・サッポ氏は、諸江やチーム関係者に、早く上京してもっと高いレベルでプレーすることを強く勧めた。日本代表の指揮官に適性を見いだされた18歳の諸江は、こうして、フットサルの世界に引き込まれていった。
諸江が入団した当時のプレデター浦安には、日本フットサル界を代表する選手たちが数多く在籍していた。若手だった諸江は、チームから、攻撃の起爆剤になるような思い切ったプレーを求められたが、気が優しく周囲へ遠慮がちだった若者は、名だたる先輩たちに囲まれ、自分の特徴を出すことができずにいた。
ゴールに向かってドリブルできるのにパスを出してしまったり、前を向けるのに後ろを向いてしまう。消極的なプレーが目立つようになっていき、フットサル日本代表監督に認められた才能は、いつしか輝きを失っていた。
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