「もう1つのW杯」に挑む、諸江剣語31歳の挑戦

プロサッカー選手の夢を諦めた男が目指す先

2017年10月15日、諸江は過去に経験したことがない深い悲しみにくれていた。最愛の兄として慕っていた諸江慎語さん(当時35歳)が、不慮の交通事故で帰らぬ人となってしまったのだ。あまりにも突然に起きた出来事に、行き場のない感情を整理することができず、フットサルに向き合うことすら難しい時期を過ごした。

諸江にとって、失った兄の存在の大きさは計り知れないものだったが、改めて気づいたこともある。

「いま言えることは、僕には尊敬していた最愛の兄がいて、その兄を今でも誇りに思っているということです。そして、つらい時期に僕や家族を支えてくれたり、元気づけてくれるチームメートや仲間がいてくれたことは、僕の誇りです」

思うところはたくさんあるはずだが、決して多くを語らない諸江らしく、兄への想いと仲間への感謝の気持ちだけを口にして前を向いた。諸江剣語とはそんな男だ。

家族の想いを胸に、再び夢を描く

諸江には、上京してフットサルに取り組みはじめてから12年間、ずっと描き続けてきた夢がある。フットサルワールドカップという大舞台で、日本代表の一員として世界と戦うことだ。現在31歳の諸江は、愛知県が開催地として名乗りを上げている2020年のワールドカップが、最初で最後のチャンスだととらえている。2017年の3月以降、日本代表チームの招集から遠ざかっている状況だが、それでも、目標を見失うことなく、前だけを見ている。

「プロのサッカー選手になれなくて、目標を見失っている時に、フットサルに出会い、もう一度、夢を持つことができました。小さな努力を継続して積み重ねてきて、ようやく目標まであと少しというところまできました。確かに、ここ最近は代表合宿にも呼ばれていない状況ですし、中には、“絶対無理だろう”って言う人もいるかもしれません。

諸江剣語(もろえ けんご)/フットサル選手。フウガドールすみだ所属。1987年2月生まれ。石川県出身。身長168cm、体重66kg。ポジションはフィクソ(筆者撮影)

だけど、誰がなんと言おうと、夢を持つことも、夢を語ることも、夢に向かって努力することも、それはすべて自分次第。代表に再び選ばれるためにも、まずは所属チームを勝利に導くことができる選手になりたい。まだFリーグに上がってから一度もタイトルを取ったことがないので、まずはタイトルを取りたい」

こう語る姿は、周囲に気を使い、本来のパフォーマンスを出し切れなかった以前の諸江剣語とは明らかに違う。

アスリートとしては少し小柄で、アスリートとしては少し心優しい男は、いま、強い意志と、継続力という大きな武器に持って、未来に向かって歩んでいる。ずっと応援し続けてくれる家族の想い、今も空から応援している兄の願い。そして支えてくれる仲間たち。たくさんの想いを背負って、諸江は自らの夢を描き続ける。

(文中敬称略)

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