今さら感ある「定借」が、実は結構お得な理由 パナソニックが考える「ゼロ円」にならない家

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定借なら、一戸建ての新たな住み方もできる。たとえば、子どもがいる間はここに住み、夫婦2人、あるいは高齢になったら貸して、ほかの場所に住む。これまでは「家を買ったら生涯そこに住み続ける」という考え方が主流だったが、今後はその時々の自分のライフスタイルに合わせて住むという選択肢があってもいい。

親世代の不動産が空き家化し、負担になる時代であることを考えると、使えるときだけ使う「使用より利用」という考え方は十分ありうる。55年所有することを考えて作られている家なら、自分たちで使わなくなっても長期に賃貸としても活用できるはずである。

小規模だけに人間関係が重要に

問題をもうひとつ挙げるとすれば、コミュニティの運営や戸建ての管理だろう。6軒という規模を考えると人間関係は大きな意味を持つ。その懸念も購入をためらわせる要素となりうる。事前に購入希望者を募るなどあらかじめ人間関係を構築するきっかけを作るようなやり方はできなかったか。

管理については当初2年間の植栽の管理は同社の手配で行われることになっているが、以降は購入者で作った管理組合が資産価値維持を考えていくことになる。マンションのような大規模修繕があるわけではなく、比較的難易度は低そうだが、マンションでの管理組合参加を嫌って、一戸建てを選ぶ人もいる。どのような人が購入するかはここでも問題だろう。

パナソニックは、タウンマネジメント、リユースや再販も含めてこのプロジェクトを継続ビジネスと見ているとするが、どこまできちんとかかわっていけるかも、課題として残る。

懸念はほかにも挙げられるし、長く価値を維持し続ける欧米の住宅と、わが国のそれの違いに詳しい人ならさらに多数を指摘するだろう。だが、定借にアレルギーを持つ人が少なくない中、100%理想が実現できないなら何もしないというより、理想には届かないところがあっても実現を目指すという姿勢は評価されてもいいのではないか。

もちろん、このプロジェクトが今後も続けられることがその前提だ。逆にこれ1回で終わるのであれば評価はできない。多くの反対を販売、企画・建築設計、建築施工という複数部署が連携することで押し切っての事業と聞く。日本の住宅を豊かにするという高い目標が一朝一夕に、ひとつのプロジェクトで実現するとは思えないが、匍匐(ほふく)前進でいい、少しずつ近づいて行ってもらいたいものである。期待する。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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