今さら感ある「定借」が、実は結構お得な理由 パナソニックが考える「ゼロ円」にならない家

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だが、その観点で日本の住宅を見ると問題は山積している。最も象徴的なのは2016年に経済メディアで話題になった国土交通省の試算「消えた500兆円」だろう。これは2013年末時点で1969年から国民が営々と払い続けてきた住宅累計投資額のうちの約500兆円が消失していたというもの。多額のローンを組んで買った住宅が20年後に価値ゼロとなり、老人ホームに入ろうにも担保にならない、という個人の悲嘆が、国全体では500兆円もの損失に膨らんでいたわけである。

ゼロになる住宅に投資し続けていても日本人は豊かにはなれない。国は中古住宅市場の活性化などに取り組んでいるが、供給者であるパナソニックも価値の落ちない住宅を作り、価値を維持し続ける仕組みを作らなければならない。

すべての家はLDKから共有庭が臨める

となると、これまでのように安さを売りにしているだけではダメだ。そこで、今回パナソニックは共有庭を中心としたランドプランを考え出したわけだ。不動産の価値は単独の住宅ではなく、地域にある。そこで、「見た目」に配慮した庭を作ることで小さな町を作り、それが価値の向上、維持に役立つことを目指したのだ。同時に庭を介したコミュニティが生まれ、それがここに住む魅力になることも意図した。駐車場を共用庭の外に配することで、安全も確保した。

縁側を利用、庭から住戸に入れるようにもなっている。子どもが出入りしやすい高さ(筆者撮影)

住戸は各戸それぞれに違う間取りとなっており、1階はどの住戸も庭が眺められる場所にLDKが配されている。そのため、北向きにLDKがある住戸もある。面白いことに同物件の場合は公道から遠く奥まっていること、庭の奥行きが感じられることなどから一般には不人気な北向き住戸が人気だという。

気になる住戸間の視線も住戸配置のせいか、さほどは気にならない。また、1階は開放的なつくりながら、2階は逆に庭を臨まれない、のぞかれないような作りにもなっている。かなり細かい配慮のある住宅なのである。

ほかにないつくりの住宅地で、かつ夜間はライトアップもされるとあって、建設中から地元では注目の的。わざわざ立ち寄っては車を停めて眺めて行く人もいる。土地所有者にとっては代々引き継いできた土地を売らずに済んだ上に自慢の物件誕生なのである。

実は今回のプロジェクトは、購入者のみならず土地所有者にとってのメリットも大きい。日本では相続の度に土地が分散し、細分化するのが常態である。そのため、都心近くでは土地面積50㎡などというバカげた一戸建てが売られており、それもまた住宅、そして町の価値を下げている。相続税対策のアパートも空き家化すれば地域のお荷物となる。

次ページ新たに「定借」という土地を貸す手段が生まれた
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