今さら感ある「定借」が、実は結構お得な理由 パナソニックが考える「ゼロ円」にならない家

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とはいえこれまでは、売却するか、駐車場かアパートとして活用する以外の手はなかった。そこに定借で土地を貸すという手が生まれたのである。このやり方であれば、土地所有者は借金してアパートを建てる必要がなくなり、長期に低額ながら安定した収入を得られる。土地は契約期間満了後に戻ってくる。借地で税の軽減もある。ローリスクローリターンだが、アパート経営のように入居率に一喜一憂し、修繕費用の工面に悩むこともなくなる。

特に、この先には2022年の生産緑地解除問題がある。税の軽減措置がなくなった農地が宅地として放出された場合、量によっては地価下落が懸念される。放出された土地の使い道がアパートか、従来どおりの建売一戸建て群だけだとしたら、土地所有者には選択の余地はない。地域にとっても空き家と無個性な住宅地の大量発生など楽しくない未来しか想像できない。だが、そこに良質の戸建てが供給される可能性があるとしたら……。

価格は通常の定借と比べると割高

「安くすることだけを眼目に後ろ向きに定借を利用してきたこれまでと違い、今後は空洞化した中心市街地に人を誘導する際などに定借を使う手なども考えられます」(パナソニック ホームズ街づくり事業部・三宅悟事業部長)。今まで見捨てられていた感のある定借を戦略的に使うことで彼らは未来を見ているのである。

パナソニックホームズが手がけた一戸建て分譲地(筆者撮影)

考えてみればパナソニックは土地を売るのが商売ではない。「私たちはいい家を提供したい。定借でよい環境が作れれば家の価値も上がる。それが私たちのビジネスであり、日本の住宅をよくするはず」とエコソリューションズ社の逢坂健次新規事業開発部長は話す。

もちろん、いいことばかりではない。問題点もある。まずは価格。今回の販売価格は2608万円~2862万円。そこに敷金150万円(契約期間満了時に返却)、前払い家賃240万円弱(7月末引き渡しの場合。契約期間によって異なる)が加わると総額は3000万円前後。同社市場調査によるとこれは所有権物件の85~90%ほど。一般に6割程度を想定する定借物件としてはやや高値なのである。外構・植栽の費用がかさんだこともあるが、もう少しコストダウンはできなかったか。

契約期間の55年も微妙だ。35歳で購入した場合、契約期間満了時には90歳。ここに二の足を踏む人もいるかもしれない。だが、これについては仕方ないところもある。同社ではこの2年以上、首都圏を中心に何十人もの土地所有者に協力を求めて説明を続けてきたそうだが、「そんなに先のことは考えられない」という人が多かったという。

説明した土地所有者の大半が60歳以上だったのだ。こうした人たちは、趣旨には賛同し、パナソニックになら貸してもいいと考えていたが、決断には至らなかった。一方、今回の土地所有者は高齢の母と娘たち。55年後が想像できる人たちだった。

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