ジョブズは"不完全な"人間だった 映画「スティーブ・ジョブズ」監督が語るジョブズ論

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多くの失敗の上に発明が成り立つ

――映画の中では、会社の経営陣との対立や権力闘争の描写が多かったように思います。監督の意図なのでしょうか?

ジョシュア・マイケル・スターン Joshua Michael Stern 祖母は映画会社の重役。祖父はスティーヴ・アレンとともにアメリカNBCの「ザ・トゥナイト・ショー」を作り上げた製作責任者というショービジネス一家に生まれる。映画監督デビューを果たしたのは、2005年の「Neverwas(原題)」。イアン・マッケラン、ブリタニー・マーフィ、ジェシカ・ラングらが出演した同作は、同年のトロント国際映画祭でプレミア上映された。また、2008年には『ケビン・コスナー チョイス!』(未公開)を監督。その手腕にほれ込んだコスナーは同作でプロデューサーを務めた。また、現在進行中のプロジェクトとして、アンソニー・ホプキンス、キーラ・ナイトレイ、グウィネス・パルトロウ、ナオミ・ワッツという豪華キャストが出演するシェイクスピアの戯曲「リア王」を、革新的な映像で映画化する作品のメガホンをとる予定となっている。

そのとおり。権力闘争のくだりはビジョンを持っている人と、ビジネスをしようという人についての話。ビジョンというものには、どうしてもリスクが伴う。リスクは経営陣や株主が最も避けたいもの。利益が下がれば、会社の存続も危うくなるからね。けど、何かを発明するということは、失敗を重ねないといけない。多くの失敗が重なった山の上に、発明の達成というものがあるのだから。

でもそれは、ビジネスというシステムの中では難しいこと。間違いは許されないわけだから。スティーブ・ジョブズ自身も、期日に間に合わずに製品の発売を何度も延期させてしまったり、多額の資金を投入してしまったりした。これはビジョンを持った人と、そのビジョンをビジネスにしようとする人たちとの間の葛藤の物語であったと言える。アップルコンピュータ自体、3回くらい倒産しかけているわけだし、彼らが成功したのは20年以上経ってから。ジョブズ自身が経営権を握って、ようやく彼が思い描いたような製品を提供できたからこそ成功したというわけだと思う。

――監督は、本作のクリエーターであると同時にプロデューサーでもあります。そんな立場から共感するのは、ジョブズですか? それとも経営者であるジョン・スカリーやマイク・マークラのほうですか?

もちろんアーティストとして共感するのは、スティーブ・ジョブズのほうだ。でもプロデューサーとしてはちょっと違うかな。映画作りというものは、おカネを持っている側の人たちと、監督や俳優といったクリエーター側の人たちとのせめぎ合いで作られているもの。約束した期日に間に合わせなければ、何百万ドルの損害を出してしまうわけだから、監督としては締め切りを守らないといけない。やはりものを作るというのは、いろいろとせめぎ合いがあるものだ。やりたいことがあっても、おカネがかかるからダメと言われてしまうことも多々ある。毎日がその戦いだ。でも最終的にはジョブズのほうに共感してしまうだろうね。いいものを生み出すためには、やはり妥協してはいけないと思う。

次ページアップルの「ガレージ時代」から取材
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