野球とビールは結局切っても切れない関係だ 古き良き昭和の風景は次の時代も色あせない

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アナハイム・スタジアムでのビールの販売は続いている。エンゼルスといえば昨今は大谷翔平だが、彼の活躍のたびにサッポロビールで祝杯を挙げているファンがいるのだ。

「野球場で飲むビールがおいしいのは”非日常”の空間だからでしょう。だからビールの銘柄もプレミアムなヱビスがいいのだと思います。これからも野球とビールは”一蓮托生”の関係でいくと思います。ぜひ、野球場に足を運んでいただき、選手たちの熱いプレーとおいしいビールを楽しんでください」

自身も少年野球の指導者として「野球離れ」を実感している横山副部長はそう締めくくった。

高知では濃厚な野球とビールの触れ合いが

ローカルだが、今、野球とビールを心ゆくまで楽しめる場所を一つ紹介したい。

それは独立リーグ高知ファイティングドッグスの本拠地、高知市野球場だ。ここではビール1杯200円デー、飲み放題お得デーなど、ビールにかかわるイベントを連日展開している。

なにしろ商売でも「あんたとはまだ飲んどらんから、信用でけん」と言うお国柄である。ビールは濃厚な人間関係の潤滑油となる。金曜日は飲み放題の時間が15時~21時半になる。試合開始は18時だが、そのはるか前からスタンドではビール片手に気勢を上げるおじさんたちがいるのだ。

今年はビールの売り上げが伸びた。前年、大物メジャーリーガーのマニー・ラミレスなどの通訳として入団したアメリカ人女性のエミリー・ポラードさんが、今年は場内でかいがいしくビールを販売しているのだ。

エミリーさんが販売するビールはいつも人気だ(筆者撮影)

高知のおじさんたちは「エミリーさんが注いでくれるビールはうまい」と何倍もおかわりをする。2ショット写真を撮ってもらってご満悦だ。

――最後に、昭和の昔話をさせていただく。

1981(昭和56)年4月1日、大阪のサンケイホールで「第1回桂朝丸独演会」が開かれた。朝丸は現在の桂ざこば師。上方落語界の大御所だ。

師匠の桂米朝は、愛弟子の初の大舞台に際し、パンフレットに以下のような文章を寄せた。

「朝丸が入門したころ落語会を終えて南海電車に乗りました。難波駅に近づいて大阪球場のナイターの明かりが見えると、朝丸が”今日みたいな暑い日はビールがよう売れるんですわ”と言いました。彼は中学生の頃からビールの売り子をしていたのです。

この子は小さいころから苦労してきたのだ、と思ったら胸がいっぱいになりました。そんな朝丸の晴れの舞台です。成長した彼の芸をどうか聞いてやってください」

高座に上がった朝丸は「師匠がこんな文章を書いてくれた。うれしい」と男泣きに泣いた。場内からは温かい拍手が沸き起こった。この日の演目「天神山」「つぼ算」「百人坊主」が素晴らしい出来だったのは言うまでもない。

勝手な思い入れかもしれないが、球場で飲む一杯のビールには、さまざまな人間の思いが込められている。それが、グランド内のドラマと相まって、得も言われぬ味を醸し出すのだ。

ビールも野球も「昭和の風景」という額縁の中で、少しずつ古びていこうとしている。

しかし、それでも球場で飲む一杯のビールのおいしさは変わらない。平成も、間もなく終わるが、次の時代も筆者は「野球とビールをひたすら愛する者」として生きていきたい。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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