「お茶」と世界の歴史の意外にも深すぎる関係 アヘン戦争やアメリカ独立戦争の裏側にも

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こうしてイギリスは、中国に頼らずに紅茶を自給することに成功した。そしてインドは、世界一の紅茶の生産地になっていく。

チャによって伝統的な織物業を失ったインドは、このように紆余曲折を経た結果としてチャによって経済を復興させていく。

カフェインの魔力

こうして世界はチャの魔力に翻弄されていく。

アメリカの独立戦争の引き金となったチャ。それにしても、チャには戦争を引き起こすまでの魔力があるのだろうか。

この魔力の元凶こそが、チャという植物が含むカフェインだった。

カフェインは、アルカロイドという毒性物質の一種で、もともとは植物が昆虫や動物の食害を防ぐための忌避物質であると考えられている。このカフェインの化学構造は、ニコチンやモルヒネとよく似ていて、同じように神経を興奮させる作用がある。そのため、チャを飲むと眠気が覚めて、頭がすっきりする。まさに毒と薬は紙一重ということなのだ。

弱いとはいえ、本来カフェインは脳神経に作用する有害な物質なので、人体はカフェインを体外に排出しようとする。チャを飲みすぎるとトイレに行きたくなるのは、そのためなのである。

『世界史を大きく動かした植物』(PHP研究所)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

チャはツバキ科の植物である。そのため、ツバキの葉っぱとチャの葉っぱとはよく似ている。しかし、古人は無数の植物の中からチャの葉を選び出した。化学も発達せず、分析機械のなかった時代に、経験だけでカフェインのある葉を選び出した。

カフェインは、名前のとおりCoffee(コーヒー)から見出された物質である。

コーヒーの原料となるコーヒーノキはアカネ科の植物であるが、コーヒーノキもカフェインを含む。

世界3大飲料として紅茶、コーヒー、ココアが挙げられるが、その原料となるチャ、コーヒーノキ、カカオは、すべてカフェインを含む物質である。

植物が持つカフェインという毒は、古今東西、人間を魅了してきた。そして、カフェインを含むチャもまた、人間の歴史を大きく動かしてきた。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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