日銀が「麻薬中毒の日本」に打つべき次の一手 金融政策決定会合で日銀は本当に動くのか?

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「なし崩し戦法」は、市場が最も嫌うというよりは、トレーダーの格好の食い物になるからだ。金利の新しいターゲットを宣言しても、そのターゲットは狙われるだろうが、日銀に勝てる、という自信を持ったトレーダー、かつてのジョージ・ソロス氏のような大物でなければそれは不可能だ。

だがトレーダーは今、小粒にこそなっているが(集団としてはより恐ろしくなっている)、日銀がなし崩し戦法をとるなら、リスクなしに売り崩すことができる。日銀は防衛線をずるずると後退させていくだけであるから、仕掛ける側としては、スピード感さえ間違わなければ、永遠に売り続け勝ち続けることができるし、また反転して利食うことも自由で、市場はトレーダーの思うままになってしまう。

これがいちばんやってはいけない公的な市場介入であり、完全な敗戦である。介入するなら、とことん市場を支配しなければいけないのだ。

そうなると、選択肢はない。どうするか。

日銀がとる現実的な選択肢とは?

私の推奨する現実的な選択肢は、まず「物価は景気の指標として現状は不適切となった」、と今回宣言する。それは日銀が物価をコントロールできなかったわけではなく、物価の性質が変わってしまい、コントロールできないものになってしまった、という外的環境のせいだ、と宣言する。そして、今後は、長期的にはこの状態は元に戻ると思うが、長期的には物価水準のインフレ率2%程度を妥当と考え、現状では足元の物価の動きにとらわれず、景気にとって最適な金融政策を目指すと宣言する。

今回できることはこれだけである。そして、次回以降、ゼロ金利をまずやめる。これは賛否があるだろう。なぜなら、長期金利を上げないままでは、イールドカーブがフラット化することになり、いちばんの副作用といわれるフラット化を改善できないからだ。

しかし、それは短期的視野にすぎる。マイナス金利はすべての関係者に評判が悪い。だから、これを止めること自体には反対はない。そして、イールドカーブはマイナス金利の廃止でフラット化を止めると考えられる。なぜなら、マイナス金利を止めれば、次は長期金利を上げる以外ないと誰もが考えるから、市場は勝手に長期金利を引き上げるからである。

このとき、日銀は妥当と考えられる水準で適宜買い入れをすればよいのである。さらに、超長期金利は日銀のゼロ%程度という枠外にあるから、勝手に上がっていくだろうし、それは望ましい。

実はこの流れが実現できれば、なし崩し戦略をもっとポジティブに、つまり、日銀が市場の主導権を握ったまま、何もせずに勝手にトレーダーたちを動かし、市場を動かすことができるからだ。

日銀がこのような戦略をとることを期待する。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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