北海道の寒村が挑む「自治体株主制度」が凄い 返礼品で終わらない、長い関係性の作り方
総会シーズンからはやや外れた10月中旬、北海道で株主総会が開催される。会場に着くなり株主は森に分け入ると、なぜか植樹にいそしむ。午後になってようやく事業報告が行われたかと思いきや、その後株主は陶芸体験や温泉へと三々五々に散らばる。こんな総会を主催するのは、上場企業どころか企業ですらない。「町」だ。
旭川空港から車で約15分の場所にある北海道上川郡東川町。年によっては9月に雪がちらつき、冬場の寒い日にはマイナス20度近くにまで冷え込む。隣の旭川市のように動物園やラーメンといった観光資源もなければ、鉄道、国道、上水道の「3道」もない。置かれた条件はなかなか厳しい。
そんな町の株主総会に昨年は約150人が集まった。北海道外からの参加者も多いという。何の変哲もない寒村が、なぜここまで人を惹きつけるのか。
市町村合併への反発
「人口を1万人に戻すにはどうすればいいんだ」――。
2003年から町長を務める松岡市郎氏は悩んでいた。頭痛の種は国が押し進めていた市町村合併だ。財政悪化や人口減少を懸念した自治体が続々と合併を決める中、一時は東川町にも周辺自治体との合併話が持ち上がった。
合併しても町は幸せにならない、と選挙戦で合併反対を掲げて当選した松岡町長。だが、合併の可否にあたって国が暗示した基準は「人口1万人未満」。東川町の人口は1950年に記録した1万0754人をピークに、1960年代に1万人を割って以降減少の一途を辿った。1994年の約6900人でいったん底を打ったものの、1万人の大台にはほど遠い。
合併抜きにどうやって人口規模を保つか。「町に住んでいる人だけでなく、応援してくれる人だって“住人”だ。これからの時代、定住人口が大きく回復することはない。ならば、定住人口を一定に保った上で、町を応援してくれる人を増やしていこう」(松岡町長)。
定住人口8000人に応援人口2000人を足して1万人。国の役人が来ても、「冗談じゃない、うちにはきちんと人口1万人がいるぞ」と言いのけて追い返してやる。そんな反骨精神から、応援人口づくりは始まった。
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