北海道の寒村が挑む「自治体株主制度」が凄い 返礼品で終わらない、長い関係性の作り方
単に宣言をするだけでなく、自他共に認める写真の町になるべく、行動も早かった。町独自の条例を制定するとともに、町役場の看板には堂々と「写真の町」の文字を掲げ、役場にかかってきた電話には「はい『写真の町』、東川町です」。同年夏からは毎年「国際写真フェスティバル」を開催。さらに1994年からはその高校生版とも言える「写真甲子園」も主催している。
だが、現実はなかなか思い通りにはいかない。始めた頃は背伸びをして、ヌード写真やピンぼけといった、「普通の人にはちょっとよく分からない写真」に賞を贈っていた。町としては、町中が写真目当ての人や車でごった返す姿を思い描いていたが、「10年後、そうはならなかった」(松岡町長)。
2005年には、宣言の時から二人三脚で写真の町のプロジェクトを進めていた企画会社が倒産してしまう。これまで企画会社を介在して写真家やメーカーと取引をしていたのが、今度は役場職員自ら交渉の場に立たなければならなくなった。
だが、この災いが転じて福となる。職員自身が動き、アイデアを出すことが日常化していったのだ。職員が自分たちで人脈も作った。国際写真フェスティバルは国内外の写真家に権威ある大会として知られるようになり、ローカル色の強かった写真甲子園も徐々に全国区へと拡大。今では300校以上が予選会に参加する、名実ともに「甲子園」へと成長した。そうして培った人脈は、ひがしかわ株主制度でも活かされた。
「3ない」を打破せよ
高額な返礼品や都市部の税収減少を巡りつばぜり合いを繰り広げる国と自治体を尻目に、独自制度で町のファンを着実に増やしつつある東川町。「ほかの首長と話していると、◯◯がない、という話題になる。だが、実現するためにどうするか知恵を絞るのが行政だ」(松岡町長)。財源がない、前例がない、ほかの自治体でやってない――自治体が抱えがちな「3ない」を打破することこそがカギだという。
地方創生の号砲一発、一斉に走り出した地方自治体だが、一部には息切れも見える。東川町の株主制度は、都市と地方との新たな付き合い方に一石を投じている。
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