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仏像がここまでブームになった源流にある本 いとうせいこうとみうらじゅんが火をつけた

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  • 碧海 寿広 龍谷大学アジア仏教文化研究センター博士研究員
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ただし、『見仏記』には先人たちの作品にはない独自の魅力も、もちろんある。その最たる部分が、いとうせいこうとみうらじゅん、性格の微妙に異なる2人の意見や表現が、一つの本のなかにバランスよく共存している点だろう。

いとうの語りは、和辻にも通じる教養人としての性格が色濃い。フランスの現象学者メルロ=ポンティからの援用などもあり、知的な性格が強いのである。しかし、その知性が行き過ぎそうになるところで、みうらのユーモアに満ちた発想が差し挟まれ、ストップがかかる。そして、あの仏像はタレントで言えば誰に似ているといった、軽快なトークが展開される。

他方で、みうらも知的な議論が実は苦手ではない。それゆえ、ときには仏像の地域ごとの違いといった話題に関して、研究者も驚くような鋭い対話が繰り出される。この真面目(ベタ)と不真面目(ネタ)の往還に満ちた『見仏記』の特色は、いとうとみうらの名コンビによる独創と言ってよく、これは既存の仏像鑑賞の著作には、おおよそなかった魅力である。まったく新しい対話型の仏像本が、ここに出現しているわけだ。

たとえば、和辻の『古寺巡礼』にも、奈良での仏像巡りに同行した「Z君」(芸術家のパトロンであった富豪・原三渓の長男、原善一郎のこと)と和辻が、いくつかの仏像の評価をめぐり対話した内容が記されている。だが、その対話は、あくまでも和辻の自説を際立たせることに主眼があった。『見仏記』のように、個性的な2人の語りが対等な価値をもって記され、さらには傾向の異なる文章と絵が、本の上でまるで「対話」しているかのような形式の著作は、ほかに類がないのである。

教養文化の微妙な変化を象徴している

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こうした魅力をそなえた『見仏記』の、現代の仏像ファンのあいだでの高い人気は、仏像をめぐる教養文化の、微妙な変化を象徴していると思われる。かつて教養に対する信頼性が高かった時代には、和辻のような教養の伝道師のような存在が発する言葉を、読者が真面目に受けとめていた。だが、大衆化を達成した昨今の仏像鑑賞の世界では、教養人が仏像の模範的な見方を一方的に語るだけでは、面白いと思わない読者も少なくないのである。

そこで、まるで仏像鑑賞をめぐる掛け合い漫才のような、エンターテインメント性に富んだ『見仏記』が出現し、大きな支持を集めたのだろう。仏像をめぐる教養文化の多元化ないしは成熟が、そこには確かに見て取れる。

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