一汁三菜「おふくろの味」には幻想がいっぱい 「おかずの数」プレッシャーはどこからくるか

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本の中では父親は子どもの好きなものに付き合わされ、好みを反映されていないようにも書かれているが、私が主婦たちと話していると、「今日、夫が夕飯までに帰ってくるかどうか」で料理の負担感はだいぶ変わっている。その夫たちが、「おふくろの味」「手料理」「一汁三菜」といった内容にこだわっていたら、相変わらず女性たちは料理に四苦八苦することになる。

品田氏らの調査では、平日の夕食準備時間が長い人は「夕食の品数を何品以上と決めている」割合が高く、「うちの家族は、食事の品数が少ないと不機嫌になる」という質問に対して「はい」または「どちらかといえば『はい』」と答えている人(全体の18・6%)の過半数が品数ノルマを決めている。

冒頭に書いたように、私も一時期、育った環境での食事を、配偶者や自分に求めていた。今もそうである方々に言いたい。「一汁三菜」というのは、一時期の一部の家庭のものでしかない。あなたがもしかしたら食べていた食卓は、たまたま日本でその時期に実現していた食生活で、今、状況も相手(あなたやあなたの配偶者はあなたの母親ではない)も異なる中で自分の現在の家庭に求めるべきとは限らない。

だから、妻に料理を任せている男性たちには「おかずが少ない」とか文句を言わないでほしい。帰宅予定時間間際になり「やっぱり夕飯いらないや」と連絡すると妻がキレるというのが典型的な夫婦のシーンとして漫画等に描かれるが、なぜそんなにキレるかというと、どうせ誰かが食べる料理を夫に残してあるのではなくて、夫が帰ってくるなら若干メニューを増やしていたりするからじゃないか。

だから「やっぱり夕飯いらないや」は本当にやめたほうがいいし、逆に急に帰って「なんかないの」ではなくて、インスタントラーメンでも勝手に作って食べていてほしい。

料理をするのは女性でも男性でもいい

また、夫の「手作り」イメージ自体が幻想である可能性もある。少し前に佐光紀子さんの著書『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』(2017年、光文社)がTwitterで話題になっていた際、「自分で味付けをしても唐揚げがどうしても夫の言う“おふくろの味”にならない。一体お義母さんはどうやっているのだろうと夫の実家に行ったときに台所を覗いたら日清の唐揚げ粉を使っていたときの衝撃」「出汁を取るところからはじめて料理をしても夫が美味しいと言ってくれない。入れるだけのレトルトを買ってきたら初めて『これだよ!!』と感動された」といったたぐいの投稿を目にした。

日本で、ほんの一時期、1億総中流が目指され、主婦たちが夢を見て団地に住み、多くが料理教室に通い、おいしい食卓を実現し、それが幸せだった時代は確かにあったかもしれない。でも、今はもっと生き方も、生活の選択肢も多様化している。料理が得意な人もいれば、そうでない人もいる。

手料理がうまくないと女性として失格、というような世間の見方もぜひやめてほしい。結婚披露宴でのファーストバイトで「一生おいしい料理を作ります」みたいな司会も、芸能人の結婚会見で妻の料理で好きなものを夫に聞くのもやめてほしい。料理をするのは女性でも男性でもいいし、その在り方もさまざまに変化していくものだろう。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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