トヨタだけに兄弟車が脈々と残っている事情 今日においてもなお意味のある存在だ

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次に、トヨタは販売店と顧客の結び付きが強く、その点からも兄弟車を存続できるのではないかと考えられる。

1983年の7代目クラウンで、「いつかはクラウン」という宣伝文句が使われた。カローラからコロナ、そしてマークⅡやクラウンへ、顧客が歳を重ねるごとに上級車へ乗り換えていくことが、成功の証と思われるようになった。

あるいは、カローラを何世代も乗り継ぐことで、クルマとしての進化と、間違いのない買い物という安心を得られる気持ちもある。

顧客との接点を維持する取り組み

トヨタの販売店からは、定期点検のほか、消耗部品の交換キャンペーン、在庫車の大幅値引き情報など、ダイレクトメールが頻繁に届く。契約時の営業担当者から定期点検の日程調整や、買い得車の情報など度々電話がかかってくる。販売店のサービスへ入庫すると、在席していれば必ず担当営業があいさつに出る。そして雑談を交わしながら、顧客の要望を掴もうとする。

一度縁のつながった顧客との接点を維持する取り組みが、ほかのメーカーの販売店に比べ徹底されていると感じることが多い。もちろん、そうした接客が鬱陶しいと感じる消費者があるかもしれない。しかし、営業担当と気心が知れるようになれば、次もその担当者から購入しようという気持ちにもなるだろう。

インターネット情報や、インターネット販売の試行錯誤など、次代へ向けた自動車販売の方法が模索される今日ではあるが、独創的な魅力から他メーカーの車種を選ぶより、日本人にはまだ、安心を買いたいという心理が残る。私の知人は、「トヨタでクルマを買わなくても大丈夫なのですか?」と、聞いてきた。

家族構成や年齢が変わることで車種に目移りしても、兄弟車として同じ店で扱われていれば、店は顧客を逃さずに済む。トヨタには、兄弟車だけでなく、装備やデザインなどで競合他車が放つ魅力を上手に採り入れた新車が現れる。

販売系列という独自性を残し、近隣に取り扱い車種の異なるトヨタの店を並べながら、同時に一度縁のつながった顧客を逃さない品揃えを整えるうえで、兄弟車はトヨタにおいて今日なお意味ある存在と言える。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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