トヨタだけに兄弟車が脈々と残っている事情 今日においてもなお意味のある存在だ

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左からルーミー、タンク(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

販売店系列を複数に分け、取り扱い車種を区別することにより、隣同士の店舗で扱いが異なれば、それぞれの顧客を受け入れることができ、自動車メーカーとしては販売台数を全体的に増やせる思惑があった。一方で、乗り換えでより上級車種や、ほかの車型、たとえば4ドアセダンからミニバンへなど志向が変わると、販売店としては顧客を逃がすことになる。

高度経済成長期や、バブル期には、右肩上がりの新車販売が続き、販売台数を伸ばすうえで販売店系列を複数にする意味があった。もし車種を切り替える顧客を逃したとしても、新規の顧客を獲得すればよかった。しかし景気が低迷し、国内新車販売台数が落ちこむ今日では、1つの販売店でいろいろな車種を扱い、売り上げを落とさない欲求にかられる。それがトヨタを除くメーカーの販売店系列の集約につながり、兄弟車の意味を失わせていった。

トヨタはなぜ兄弟車を開発・市販することができるのか

では、なぜトヨタは今日なお複数の販売店系列を維持し、兄弟車を開発・市販することができるのだろう。

国内販売におけるトヨタの市場占有率が圧倒的であるのは周知のことだ。2017年の統計を基に改めて確認すると、同年1~12月の年間販売台数は、軽自動車を含め約520万台の規模であった。このうち、軽自動車が約180万台なので、占有率は約35%となる。

そしてトヨタが約155万台なので約30%だ。軽自動車とトヨタで国内新車市場の65%を占めることになる。残りの35%を、日産、ホンダ、マツダ、スバル、三菱などで分け合っている。ちなみに、ホンダは約72万台だが、そのうち半数近い約34万台が軽自動車である。日産は約59万台(軽自動車19万台を含む)で、トヨタの4割弱でしかない。

加えて、国内で販売される車種が、トヨタは圧倒的に多い。トヨタが28車種に軽自動車が5車種の計33車種であるのに対し、日産は19車種プラス軽自動車が3車種。ホンダは、12車種に軽自動車が5車種である。軽自動車を含め、ホンダや日産の販売車種はトヨタの5~6割でしかない。

したがってトヨタは、すべての車種を1つの店で販売するにはあまりにも車種が多すぎる。販売店系列を分けることで、店の得意分野を伸ばすことができるのである。

概算ではあるが、以上のように、トヨタ以外の国内自動車メーカーは、トヨタと同じ販売戦略は難しいことになる。そこで、販売店系列の統合が行われた。

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