天皇のお言葉に秘められた「烈しさ」を読む

日本史上の危機に何度か発せられてきた符牒

白井:つまり、戦後の2通りの象徴天皇制論が今日まさに無効化しているわけです。では、なんで無効になってしまったのかと言えば、左派も保守派も、戦後の天皇制にとってアメリカの存在がきわめて本質的な要素として絡みついているという事実に思い至らなかったからでしょう。

また同時に、どちらの象徴天皇制論も、戦後民主主義に依拠するものだった。左派は戦後民主主義を徹底せよ、穏健保守派は戦後民主主義と象徴天皇制は相性が良い、と論じてきた。しかし、戦後民主主義はすでに底が抜けたのです。それに依拠する見方は成り立ち得なくなった。

義を見てせざるは勇無きなり

白井:もちろん『国体論』を書きながら、天皇とどのように距離をとるべきか迷ったことは事実です。ただ最終的に吹っ切れたのは、これは究極的には割に単純な話ではないかと思ったからです。

今上天皇はお言葉の中でも強調していたように、「象徴としての役割」を果たすことに全力を尽くしてきたと思います。ここで言う象徴とは、「国民統合の象徴」を意味します。天皇は何度も沖縄を訪問していますが、それは沖縄が国民統合が最も脆弱化している場所であり、永続敗戦レジームによる国民統合の矛盾を押しつけられた場所だからでしょう。

沖縄の問題ひとつとっても、なぜ今日、国民統合の危機が深刻化しているのかを突き詰めると、特殊な対米従属の問題、つまり戦後の国体がアメリカを頂点にいただくものになったことによる歪みの問題に行き着きます。

天皇はこうした状況全般に対する強い危機感を抱き、この危機を乗り越えるべく闘ってきた。そうした姿に共感と敬意を私は覚えます。天皇が人間として立派なことをやり、考え抜かれた言葉を投げ掛けた。1人の人間がこれだけ頑張っているのに、誰もそれに応えないというのではあまりにも気の毒です。お言葉を否定するならそれも1つの考え方です。しかし、その根拠として挙げられたもののうち、お言葉よりも強力に心を動かすものは、私には見当たらない。

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それゆえ、天皇のお言葉を論じることは、天皇主義者になるということではない。むしろ天皇のお言葉を遠慮なく解釈し、議論することは、天皇を1人の人間として扱うことになるのではないか。そのように思ったんです。

國分:なるほど。実際、白井君は『国体論』の最終章で、「それは、闘う人間の烈しさだ。『この人は、何かと闘っており、その闘いには義がある』――そう確信した時、不条理と闘うすべての人に対して筆者が懐く敬意から、黙って通り過ぎることはできないと感じた」と書いていますね。

ここにあるのはつまり、「義を見てせざるは勇無きなり」ということだと思います。僕は天皇について論じるまで勇気を発揮したことはないけれども、今はそこまでしなければならないところに来ているとの白井君の切迫感は『国体論』から非常に強く伝わってきました。

最近の世の中はちょっと時間が経てば何でもすぐに忘れられてしまいます。もしかしたら天皇がお言葉を発表したことさえ忘れられつつあったかもしれない。しかし、白井君が『国体論』を書いたことで、天皇の烈しさや、天皇が不条理と闘っていたということが再び思い起こされた。そういう意味でも、この本には非常に大きな意義があると思います。

(構成:中村友哉)

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