虐待の写真集が1冊ずつ手作りになった理由 長谷川美祈さんがダミーブックに込めるもの
ページを繰ると、やがて、成人した女性がかるく目をつぶったポートレートに行きつく。あふれる悲しみと不安。さらに折り込まれたページを開くと半分に断ち切られた小学校の入学式の記念写真。
「私は3歳の頃から母に叩かれていました。叩かれてよろけるとやり直し、きちんと頬に当たらないとまたやりなおしと叩かれていました」
こんな文章から始まる聞き取った虐待の物語が記される。
8人の子ども時代の体験が、幼い頃のアルバムや持ち物で示され、現在の苦しみがポートレートと文章などで示される。
幼いとき、実父が殺した弟を浴槽で発見したという経験を持つ男性。そのセクションでは、当時父に殴られるときに使われていた警棒が撮影されている。
別の女性は、腕に爪を立てるという自傷行為の瞬間までもが写されている。苦しい体験の末、人格が入れ替わる解離症状を持つ女性のノートの文字は、次々に字体が変わっている。
よくここまで見ることを許された、そして見続けることができたと感じさせられる。
虐待の実態を学ぶ中で、電話相談員にもなった
作者の長谷川さんは、いったいどんな思いで、このダミーブックを作ったのだろうか。
「1人目の女性のポートレートは最初、彼女が泣いている写真を使っていました。でも、それだと、『ああ、つらかったんだね』と思考が限定されてしまう。それで泣いている写真はやめました」
長谷川さんは、何を感じ取るか読者を信頼しつつ、慎重に1葉ずつ写真を選択していったのだ。
実際、このダミーブックを作るまでに、企画から2年かかったという。児童虐待の検証報告を読み込み、裁判を傍聴した。講演会に足を運び関係者と人脈を作り、徹底的に虐待について学んだ。虐待防止活動をしている電話相談員養成講座も受講。電話相談員としても活動するようになった。
本に登場した8人の虐待経験者たちとは、当事者が書いたブログを読んで連絡を取り、SNSでも話してくれる人を募集して出会った。繰り返し会って、話を聞いた。話を聞くのには、電話相談員としての経験が役立ったそうだ。
そのようにして撮った写真と、集めた素材をスキャンするなどして、写真を選んだり素材を選んだり、並べ方にこだわったり、文章を吟味しつつ、40種類にものぼるダミーブックを作った。
印刷する文字の種類、紙をめくるときの手触りや厚みにもこだわっている。「めくる作業が、人と関わる行為につながって、心の中の大変なところに触れる経験と重なってほしいと思いました」
と長谷川さんはいう。それは、思考が深まっていく過程だ。
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