虐待の写真集が1冊ずつ手作りになった理由 長谷川美祈さんがダミーブックに込めるもの
ダミーブックは、こうして並べた用紙を折り、接着剤を使って貼り合わせ、背を糸でかがった、手作りの本の形で写真を表現する芸術形態だ。
日本では馴染みのない人も多いかもしれないが、国外ではこうした写真家の表現は広まっており、ドイツ、フランス、アメリカ、中国など世界中にアワードがある。『Internal Notebook』は昨年、アムステルダムで開かれたアンシーン写真祭で特別賞を獲得。中国雲南省大理で開かれた第7回大理国際写真祭でもベストパブリケーション賞を受賞した。世界的に高い評価を得ている
完成形のダミーブックが作られた2017年は、児童憲章が生まれて66年目に当たる。その意味のある66冊を手作りし、すでに完売している。
実は長谷川さんの写真家としての活動は、ここ6年のことだ。写真による表現に向き合ったのは、現在小学校3年生になる一人娘の妊娠出産を通じてだった。妊娠時に体調が悪く、3度入院し、帝王切開だった。出産後、娘は母乳を飲まなかった。
「ぱんぱんに乳房が張るのに飲んでくれない。新生児室にママたちが集まって授乳をする時間があったんですが、他の赤ちゃんはごくごく飲むのに、娘は嫌がって泣き叫ぶ。でも、看護師さんがミルクを飲ませると飲むんです」
新生児訪問で居留守を使うほど、追い詰められた産後
病室に戻ると1人で大泣きした。退院後も母乳を飲ませようと格闘した。
「あまりこだわらない性格なのですが、当時、母親として母乳を飲ませるということに強いこだわりがありました。インターネットで検索をして、調べました。誰かに相談するというよりも、自分がダメなのだ、自分には母性がないのだと感じていました」
思いどおりにならない娘に暴力を振るいそうな自分がいた。地域の保健センターの新生児全戸訪問事業の訪問員が訪ねてきて、インターホンを鳴らしたが、出なかった。
「そんなのに出ていられないと思いました。余裕がなかった。この頃は外出せず、電話にも出ず、パソコンもやらなかった。医者にかかるとか、実母や義母や夫に相談するという気持ちもありませんでした」
精神的に追い詰められた。だが、どうしても娘はおっぱいを飲まない。
それが行き詰まったとき、突然、どうにでもなれと思った。粉ミルクを飲ませ、1カ月検診に連れていくと、体重は順調に増えていた。それを確認できて、こだわりは消えた。
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