リリ-・フランキー「絶望している人たちへ」 5年のひきこもり経験から思うこと

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リリー:オレの場合は大学を出てからなにもしていない時期が5年ぐらいありました。一人暮らしなのに働いてないからカネがなくて、電気もガスも止められて、食うものもあまりなかったです。月に1回ぐらいはバイトをしていましたが、あとの生活費は親や友だちから借りて、最後はサラ金にも手を出していました。

ふつうに考えたら働けばいいんだけど、その気力がまるでないんです。バイトへ行こうと思っただけで3日間ぐらい徹夜をした気分にすらなってしまう。そうなるとバイトへ行くどころではなく外へ出る気力さえなくなっていました。

当事者E:どうして、そこまで気力を失ってしまったのでしょうか?

リリー:なんでかな……。昔から気力もガッツもまるでなかったけど、たぶん自由になったからかな。親元を離れて自由になった瞬間にタガが外れてしまったような気がします。

「いま思い出してもゾッとする」こととは

当事者E:やっぱり自分を受け入れられなかったり、罪悪感に苛まれたりしましたか?

リリー:「オレは完全に人間のクズだな」と思いながら暮らしていました。ただ、そういう罪悪感に苛まれる時間を長く続けると、どんどん「無痛」の状態になっていくんです。罪悪感だけでなく、そのほかの感情もほとんど湧き上がらない日々です。あまりに精神状態の危機が続いたため、自分の感覚を守るために感覚自体をカットしてしまったのかな、といまでは思っています。

そういうなかで、昔付き合っていた女性と会ったんです。あまりにカネがなくて食べられない日が続き、なんとか昔の彼女から飯をおごってもらおうと思ったからです。

彼女は何も知らずに家に来てくれましたが、電気もガスも止められたオレの家に来て、すぐに状況を察して、弁当を買って来てくれました。しかも最後の別れ際はカネまで渡してくれてね。オレ、そのときのことはいまでも鮮明に覚えています。オレが着ていたのが黄色いチェックのシャツ。その胸ポケットに彼女が2000円を入れてくれました。そのとき、オレは心底「ラッキー!」って思った。

情けないとかみっともないとか、そんな感情はまったくなかったです。自尊心の下にある美意識みたいなものすら壊れていたんです。いま思い出してもゾッとするし、あのころだけには戻りたくないです。

当事者E:なんかひきこもっている自分が怖くなってきました。

リリー:大丈夫、なんとかなります。みなさんが不登校をしたり、ひきこもったり、生きづらかったりするのは、きっと自尊心が強いからです。オレもそうでした。自尊心が強くて感受性が強くてロマンチックだから学校や会社に絶望したんです。それは鈍感でいるよりもずっといいことです。日本にもいろんな人種がいるし、他人からは想像されづらい状況の人もたくさんいます。そういうことを知らず、人の痛みもわからない人間になるよりはずっといいことです。

でも、きっとこれから自分の強い自尊心と戦うことになるはずです。観念ではなく具体的な出来事によって突き動かされように外へ出ていくはずです。なので、いまはムリをして焦る時期じゃありません。大丈夫、みなさんはまじめだからきっとなんとなるはずです。

一同:ありがとうございました。

※本記事は『不登校新聞』2010年10月15日号に掲載された記事を、当時は掲載しきれなかった当事者の悩みを加えて再編集した

石井志昂(いしい しこう)1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた。
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