もうひとつ、マクロ派のエコノミストの中には、関税額をアメリカのGDPと比較して「実体経済への影響は軽微」などという人がいる。そんな浮世離れした話は勘弁してほしい。モノづくりの現場というものは、数%のコスト削減に神経をすり減らしているものだ。ある日突然、「25%の関税」が天から降ってきたら、生産計画など吹っ飛んでしまう。大統領の日々の発言は、経営の不透明性を高めてしまっている。貿易戦争への懸念は、確実に製造業のマインドを冷やしていると思うぞ。
それでは米中貿易戦争はこれからどうなるのか。おそらくトランプ大統領の目論見としては、お得意のプロレスで納めるつもりなのだと思う。すなわち短期決戦で、米中両国が追加関税を発動する期限の7月6日までに二国間でディールしてしまうという腹だ。
いつも言っている通り、ドナルド・トランプ氏の本質は「視聴率男」である。見る者の意表をついて、次々と新しいネタを投入する。彼は国民が飽きっぽく、関心が長続きしないことを熟知している。現にわれわれは、G7や米朝首脳会談のことをどんどん忘れてしまっているではないか。
7月もトランプ劇場!? 米中ガチンコ対決に警戒を
ひとつのネタを長く続けていると、トランプさん自身も底の浅さがバレてしまう。だから米中対立のネタを焚き付ける一方で、ロシアのウラジミール・プーチン大統領との首脳会談を望むなど、今度は別の戦線に火をつけようとしている。なに、他にも選択肢は無数にある。
(A)7月1日の選挙で誕生するメキシコ次期大統領を苛める。反米感情を追い風に、「アムロ」こと左派のオブラドール候補が勝つ公算大。好勝負が期待される。
(B)7月11-12日のNATO首脳会談に出席して、「欧州はもっと防衛費を増やせ!」などと啖呵を切る。
(C)中東で新たなネタを仕掛ける。そういえばジャレッド・クシュナー上級顧問があの辺を歴訪していたような…。
(D)7月になれば、茂木敏充経済再生担当相とロバート・ライトハイザーUSTRの間で日米新通商協議も始まる。「日本叩き」も選択肢のひとつであろう。
とまあ、来月もこんな風に新手の「トランプ劇場」が続きそうなのだが、その前に中国側の対応がどうなるか。「大国から強国へ」と経済建設を急ぐ今の中国としては、ここで米国を敵に回したくはないはず。習近平や李克強などの首脳クラスは、この件について一言も発言していない。貿易戦争に関する国内での報道も押さえている。つまりは事態収拾を念頭に置いてのことなのかもしれない。
しかるに米欧間で貿易戦争が勃発し、投資制限という新たなイジメを仕掛けられたとなると、いよいよ中国としても引くに引けなくなる。命よりも大事なメンツの問題になってしまうのだ。このままだと、米中もガチンコ貿易戦争に突入してしまうのではないか。中国製のハイテク製品には、日本製の部品がたくさん使われている。株をやっておられる方には、製造業から非製造業、外需銘柄から内需銘柄への避難をお勧めしておこう。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)
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