その興奮も冷めやらぬ6月15日、トランプ政権は対中追加関税リストを発表した。つまり第3弾は米中貿易戦争というわけ。総額500億ドルの輸入品に対し、25%の関税を課すという。中国は即座に、同じ500億ドル分の対米報復関税リストを公表した。
するとトランプ大統領は、さらに2000億ドル分に対して10%の上乗せ関税を検討するようにUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)に指示した。これには中国側も弱ってしまった。なにしろ中国の対米輸出は5056億ドルもあるが、輸入は1304億ドルしかない(2017年実績)。2000億ドルと吹っかけられると対抗できないのだ。
このカウンターパンチを受けて、上海総合株価は節目となる3000ポイント台を大きく割り込んだ。中国を目の敵としていたスティーブ・バノン前首席戦略官は、「俺はこういうことをやりたかったんだ!」と今ごろ感極まっているかもしれない。
もっともこんな風に貿易戦争を始めてしまって、アメリカ経済が無事に済むかどうかはわからない。既にEUもアメリカ製バイクとウイスキーへの報復関税を打ち出している。
「バイクにバーボン」・・・EUの「反撃」には知性がある
EUの反撃はなかなかエスプリが効いている。バイクの名門、ハーレー・ダビッドソンの本社所在地はウィスコンシン州、バーボン・ウィスキーの本場はケンタッキー州。いずれもトランプ支持者が多く、ここで評判を落とすようだと秋の中間選挙や再選戦略に狂いが生じる。しかも「バイクにバーボン」と言えば、いかにもトランプ大好きの白人ブルーカラー層がこよなく愛する組み合わせではないか。
狙い撃ちにあったハーレー社は、欧州向けバイクの生産を国外に移すと表明した。トランプ大統領は激怒して、「我慢しろ!」とツイートしている。しかしこれはご無体というもの。民間企業は大統領のためではなく、株主のために働いているのだから。
そもそも保護貿易で、「アメリカを再び偉大に」することなどできるはずがない。関税を上げて国内市場を守ろうという発想自体が時代遅れなのである。
基本的な話で恐縮だが、関税を払うのは外国企業ではない。アメリカの消費者なのである。仮に本当に中国からの輸入品に対し、500億ドル×25%+2000億ドル×10%の関税をかけるとしたら、総額は325億ドルになる。日本円にして約3.6兆円を消費者が払って、その分が政府の歳入となる。つまりは増税なのである。景気の足を引っ張ることは想像に難くない。トランプ大統領、まさか誤解してはいませんよね。
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