ロボットが「高層ビル」を建てる日は来るのか ゼネコンの「建築施工」自動化の最前線

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ところが、使い勝手や開発コストに難があり、ほとんどが実証実験の段階でひっそりと姿を消した。やがてバブル崩壊の憂き目に遭い、研究開発投資の余力もなくなった。仕事量も激減し、もはや自動化を進める動機はなくなった。

激減した工事をめぐって各社で奪い合っている中で、あおりを食ったのは現場の職人だ。安値で工事を受注した結果、職人の賃金は切り下げられた。建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに、2017年には498万人と3割弱も減少した。

「建設業を見切ってコンビニ店員に転身した職人を何人も見てきた。炎天下での重労働よりも空調が効いた部屋で立っているだけの仕事のほうがマシだと思ったのだろう」(大手ゼネコンの下請け会社幹部)

「このままでは建設業の担い手がいなくなる」。ゼネコン各社はそう口をそろえる。今回の自動化ブームは、建設業の空前の好況を前にした人手不足という構図は似ているものの、背後には建設業就業者の減少に歯止めがかからず、業界が維持できなくなるという危機感がある。「少しでも作業を楽にしないと、若い人が入ってきてくれない」(大手ゼネコンの技術開発担当者)という焦りが、各社の開発を加速させている。

実現化に向けて、課題も山積み

とはいえ、高層ビルの建設現場でロボットが本格的に活躍するには、まだまだ時間がかかりそうだ。

ボードのない部分に機械が打ち込んでしまった瞬間。ロボットにとってはどこから「曲がっている」「ずれている」状態になるのかを判別するのが非常に難しい(記者撮影)

「あっ……」。実は清水建設が主催したロボットのお披露目式で、ちょっとしたアクシデントがあった。ボードを天井に張るロボットの説明中、すし詰めの報道陣に押されて設置されていたボードの位置がずれてしまった。

だがロボットはお構いなしに事前に指定された座標どおりに動いた結果、何もない空間にビスを留め始めてしまった。「複雑な数式を一瞬で解くことはできても、『ボードがずれている』といった感覚は教え込むのが非常に難しい」(清水建設の印藤正裕・生産技術本部長)。

積水ハウスの施工ロボットも、「ボードは持ち上げると両端がたわむため、カメラでボードの位置を確認するにはどうしても2台体制でないといけない」と、一緒に開発を行ったロボットメーカー、テムザックの髙本陽一CEOは話す。2台のロボットはWi-Fiでやり取りするため、周囲にたくさんの電波が飛び交う環境下では、通信が阻害されるおそれも残る。

性能面以外での課題もある。関節を複数持ち、人間の腕のように動く工作機械は制度上、工場のラインなど「その場から動かずに作業する」ものとして扱われていた。ところが、建設現場ではあちこち動き回って作業をする必要がある。そのようなロボットは、「制度上想定してされていない」(印藤氏)。

どこまでが合法なのかを規制当局とすり合わせながら作業を進め、当面は資材の運搬ロボットなどを、職人が帰って現場に人のいない夜間に導入する予定だ。

浮かんでは沈み、を繰り返してきた高層ビル建築の自動化の動き。ある大手ゼネコン幹部は「開発されたロボットはどれも、どこかで見たようなものが多い。現場で投入されずに終わった過去の二の舞いを演じるのでは」と自嘲ぎみに話す。

それでもなお、業界の存亡の危機に直面して尻に火がついたゼネコン。自動化の動きを加速するチャンスかもしれない。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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