中野 でも、そこを伝える努力をしようとしませんよね。結局のところ、NISAも損か得かという話に終始してしまっている。
藤野 これ、ちょっと古い資料で恐縮ですが、「21世紀における経済教育政策の日米比較」という、平成14年版のものなのですが、この中身を見ていくと、非常に興味深い項目があるんですよ。これ、日米の高校生、大学生、社会人を対象にして、経済学の基礎的な質問を行うことで、両国の意識の差を見ようというものなのですが、たとえば「経済における企業(起業)家の基本的役割は?」という問いに対する4択があり、正答は「創業に伴うリスクを負うこと」なのですが、これを正しく選べた人は、米国の79.4%に対して、日本は36.3%でした。それも、年齢別で見ると、米国は年齢が高くなるほど正答率が上がるのに対して、日本は上がらない。どの年齢層で見ても、ほぼ同じ正答率なんです。
渋澤 つまり、日本人は経済の基本について、何も学んでいないということですか……。
藤野 リスクを負うことが正しい行為なのだという認識が、日本人の中にはほとんどないということなのでしょうね。
渋澤 本当の意味で危ないことと、リスクを取ることの違いがわかっていないですね。リスクとは「危険」という意味ではなく「不確実性」ですから。悪い結果だけではなく、よい結果も出るのが不確実性です。
藤野 これはね、学校教育の問題も非常に大きいと思いますよ。日本の中学校と高校の計6年間で用いる教科書の中で、経済や株式会社について扱っているページ数ってどのくらいだか、ご存じですか?
中野 決して、多くはありませんよね。
藤野 たったの2ページですよ。経済は「社会科」の中に組み込まれているのですが、社会科といえば日本史、世界史、地理が中心。経済を勉強する場はほとんどありません。しかも、文系で大学が経済学部でもないかぎり、大学で経済を学ぶ機会もない。ね、経済ってほとんど勉強していない人が日本人の大半を占めているんですよ。本来、損することは悪いことでも何でもない。でも、日本では損をすることが悪だと思われている。だから、リスクを取るのはよくないことになり、結論的には何もせず、ひたすらおカネを貯蓄しましょうということになる。
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