とはいえ、前途は多難だ。今後、北朝鮮が完全非核化に向けて、どのような行動をとるのかが定まっていない。将来のポスト非核化時代への見通しも共有されたシナリオがあるわけではなく、紆余曲折があることは間違いない。
つまり、「短期的な非核化促進のプロセス」と「長期的なポスト非核化時代の体制」をめぐる様々な思惑は、相互に、有機的に影響しあい、からみあう。それら一つ一つの動きが、これからの国際社会のシナリオを複雑化するだろう。
ともかく、今回の米朝首脳会談の成果と、これからの首脳会談の内容次第が、トランプ大統領にとって大きな政治的テーマであり、それは同時に、2020年のトランプ再選の最大テーマとして大きく浮かび上がってくることになる。
「米韓軍事演習中止」の大きな衝撃
今回の米朝首脳会談について、反トランプの立場で報じている米メディアは、相変わらず批判的だ。彼らは、今回のトランプ大統領の演出によるサミットは、「外交的なショーに過ぎない」「人権問題を軽視している」などと批判している
米朝首脳会談直後に行ったトランプ大統領の単独記者会見では、米韓軍事演習の中止を明言した。米メディアが攻撃した最大のポイントは、この米韓軍事演習の中止であった。一方的な譲歩を行った、として問題視しているのだ。
はたして、このトランプ大統領の発言は問題なのか。一般的な「国際慣行」の角度から分析してみよう。トランプ政権は、平昌オリンピックの間も、米韓軍事演習を実施していない。
オリンピックよりも、今回の米朝首脳会談のほうが、政治的インパクトは遥かに大きいといえるだろう。つまり、オリンピック期間中に実施しなかった米韓軍事演習を、今回の米朝首脳会談によって、当面、中止するという判断は、「国際慣行」の視座からすれば、論理的であり、筋が通ると分析できる。
それに、トランプ大統領は、金正恩委員長が完全非核化に向けたアクションをとらない場合にも、米韓軍事演習を中止したままにするとは、一言も言っていないのだ。つまり、不可逆的な決断ではないのであって、なんら非常識ではない。
マイク・ポンペオ国務長官は、北朝鮮の非核化に関し、今後2年半の間、つまり、トランプ政権1期目の2021年1月までに、大きな前進があるという見通しを示し、さらに、当面中止されている米韓軍事演習も、場合によっては、再開される可能性があることを示唆している、と報じられた。
米韓軍事演習中止の報に、もっとも驚愕したのは韓国だった。その驚愕の裏には、まず寝耳に水の報だったことのほかに、シンガポールでの記者会見において、トランプ大統領が在韓米軍撤退の可能性についても言及したという事情がある。
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