「統一後の実権を握るのは金正恩」という悪夢 米朝会談が示唆する不安な未来

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今年は中間選挙の年であり、トランプ大統領の2020年再選に向けた戦いは、すでに始まっている。現段階において最大の注目点は、北朝鮮問題といっていい。

それを100も承知の上で、トランプ大統領にとって、新たに順風が吹いている。トランプ大統領自身が実施した巨大減税の波及効果が着実に出てきていることだ。ここへきて米国経済が順調に推移していることが明らかになった。

「バフェット発言」と「ロムニー予測」

それを裏付けたのは、ウォ―ル街で著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏だ。同氏は、トランプ大統領がシンガポールに向かう1週間ほど前に、米3大ネットの一つNBCテレビとのインタビューで、今後の経済見通しを示し、それが全米の注目を集めた。

バフェット氏は、野球にたとえて、こう解説した。「いま、我々は6回の攻撃を始めるところで、我々の強打者たちが、次々と打席に向かおうとしている」と。このバフェット発言のポジティブな見通しは、米国経済が2020年の大統領選の時まではもちろん、さらに、それ以降も好調を続ける、という時間感覚を示唆したものと、多くの米メディアで受け止められている。

もちろん、バフェット氏とは異なる見解も多いが、このバフェット発言が示唆する米国経済の好調持続は、2020年再選に向けてトランプ大統領の追い風になる。その追い風を受けて、トランプ大統領はG7サミットで、カナダやフランスを含む欧州諸国と衝突しながらも、米国の立場を強調し、その勢いに乗って、シンガポールでの米朝首脳会談を成功させた、ということができる。

さらに、バフェット発言とほぼ同じ時期に、かつて共和党最終大統領候補であり、いまだに将来の大統領選への意欲を失っていないと見られているミット・ロムニー氏が、「2020年には、トランプ大統領の再選が「ソリッドリー(確実、手堅い)」と予測し、それが全米メディアに大きく報じられたのだ。ウォ―ル街のコンサルティングのプロ中のプロだったロムニー氏にとっては、将来予測は専門分野の一つであり、そのロムニー氏がトランプ氏再選を予測した意味は大きい。

この「バフェット発言」と「ロムニー予測」という2つの追い風に乗り、さらに、今回の米朝首脳会談の先行きを含めた成功見通しが加わるとなると、2020年の再選戦略に死角は何もないようにも思われる。果たしてそうなるのだろうか。反トランプの米メディアは、トランプ氏との対立姿勢をいささかも緩めてはいない。

長年、米国の選挙を見続けてきているウォ―ル街の経験論的な戒めとして、「選挙では、上手の手から水がこぼれる。そのことに気をつけよ!」という言葉がある。ポジティブ志向の米国だからこそ、得意技において、各候補は気をつけよ、という意味である。 

トランプ大統領の得意技といえば、「ディ―ル・メイキング(取引を成立させること)」である。それは、ウォ―ル街が「ネゴシエーションのアーティスト(芸術家)」として、長年、高く評価しているものだ。その得意技が裏目に出ないように注意すること、それこそが、今後、トランプ大統領にとって、最大のテーマになるかもしれない。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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