講談社「ボンボンTV」、華麗な復活劇の舞台裏 漫画編集者はユーチューバーを志した
この復活劇をゼロから描き起こし、指揮してきたのが講談社 第三事業局 動画事業チーム編集長の安永尚人氏だ。
同氏は、入社以来20年ものあいだ「週刊ヤングマガジン」の編集者を経験してきた。『彼岸島』『COPPELION』『AKIRA』『3×3 EYES』『攻殻機動隊』などのヒット作品も担当し、「月刊ヤングマガジン」も創刊。アメリカでKodanshaUSA新設に携わったり、BeeTV(現:dTV)配信のムービーコミック「Beeマンガ」という新ジャンルの立ち上げにも尽力した。またグラビア担当でミスマガジンなどに関わり、自動車業界においても日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員を10年以上務めている。さらに紙媒体だけでなく、2014年には同誌の電子版「ヤングマガジン海賊版(現:e-ヤングマガジン)」もローンチさせた。
「そろそろ、次のことをやりたいと思っていた時期だった」と安永氏は、ボンボンTVを企画したキッカケを振り返る。そのころちょうど、子どもにせがまれて、小学館の「月刊コロコロコミック」に登場するキャラクターのグッズを手に入れるため、行列に長時間並んだことがあったという。「そのとき『これが自社のマンガ雑誌の作品であれば……』と、ふと思った。それと同時に、講談社には小学生向けの定期刊行物がひとつもないことにも考えが及んだ」。
そこで、コロコロのライバルとなる小学生向けメディアを構想した安永氏は、まず想定スポンサーとなる玩具企業などをめぐり、ニーズを探る。結果、どこも新しいコミック誌を望んでいることがわかった。小学生をターゲットとしたコミック誌は、コロコロ以外になく、他の選択肢があれば嬉しいという話だった。
「『おはスタ』に負けた」
想定スポンサーたちは、他の選択肢が欲しいといっている。だが、ボンボンはコロコロに押されて、撤退した身だ。そのままの形で復活を遂げていいものか。そこで安永氏は、当時コミックボンボンに関わっていた社員にも、意見を聞いて回った。そうしたら、彼らは『コロコロに負けたのではない』と、答えたという。
「では、何に負けたのかと聞くと、『おはスタ』に負けた、と答えた」。
おはスタは、テレビ東京系列で平日の早朝に放映されている、子供向けバラエティ番組。小学館は、おはスタに企画・制作から提供まで、深く関わっている。そのため、コロコロで紹介したゲームやグッズは、おはスタでも紹介されて、爆発的に売れるのだ。ボンボンには、そんなエコサイクルが構築できなかった。そこが大きな敗因なのだという。
「だから漫画誌を作るよりも、おはスタをつくるほうが先だと思った。ただ、いまの子どもたちは、テレビよりYouTubeを見ている。それなら、YouTubeでやろうと思った」。