米朝首脳会談の舞台で警戒されるテロの脅威 世界一安全なシンガポールも危機感強める
背景には、母国インドネシアに子どもや家族を残し、シンガポールの家庭に住み込みで働くなか、孤独や孤立感を募らせていったり、イスラム教徒には禁じられている豚肉の調理を命じられたりすることなどへの葛藤を感じる例もあるという。
中華系の裕福な家庭で働く、30代後半のフィリピン人家政婦の女性は「あまりこの問題に関しては話したくはないのだけれど」とためらいながらもこう語った。
「周りには過激な思想に感化されるような家政婦仲間はいないけれど、確かに家族や子どもを残してこの国で生活しているうちに孤独感を募らせて、インターネットなどで危険な思想に染まってしまうことは理解できなくもない。雇い主とうまくいかなくて鬱憤がたまってしまう人も少なくないわ。フィリピン人家政婦たちは、仲間同士で休みの日に集まって騒いで発散するのだけれど、インドネシアの女性のことはよくわからない」
この現象はシンガポールだけではない。インドネシアに拠点を置くシンクタンクによると、香港に出稼ぎに行った約50人のインドネシア人家政婦がISの過激思想に影響され、オンライン上で現地の戦闘員とやり取りを重ね、シリアへの渡航を企てるケースもあったことが指摘されている。
キリスト教徒が多いフィリピンとは異なり、インドネシアは世界一イスラム教徒が多い国家として知られており、つい先月5日には子ども連れの3家族が、キリスト教会や警察署を狙った自爆テロなどを起こした。
先のマリーナベイ・サンズを狙ったテロ攻撃を計画していたのもインドネシア人であり、ISの思想に感化された一般市民の動きにインドネシア政府も頭を抱えており、シンガポールをはじめとする東南アジア各国は、国境を越えてテロ対策への連携を強めているのだ。
周囲を数多くのイスラム教徒抱える国家に囲まれ
このように、シンガポールは、世界最大のイスラム教徒を擁する隣国インドネシアをはじめ、マレーシアやフィリピンなど実際にテロ事件が発生している国に囲まれており、隣国からの過激分子への警戒を含め、厳重なテロ対策を行ってきた。最近では、これらの国においてISの戦闘に母国から加わって戻ってきた、いわゆる“IS帰還兵”などの存在が問題視されており、シンガポール政府は対岸の火事ではない差し迫った問題としてとらえ、警戒を強めている。
インドネシアなどにおけるIS帰還兵の取材を進めてきた、東南アジアのテロ情勢に詳しいマレーシア人ジャーナリストはこう話す。
「IS掃討後に、戦闘に参加した多くの東南アジアの過激分子が母国に帰還し始めている状況だ。残念なことに、東南アジアにおける状況は以前より深刻さを増していると言っていい。シンガポールは、セキュリティが強固な反面、金融のハブであり、カジノや人気のレジャー施設などが密集しているからこそ格好のターゲットになりやすいことを、政府としてもよく把握している」
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